アメジローの岩波新書の書評(集成)

岩波新書の書評が中心の教養読書ブログです。

2021-04-01から1日間の記事一覧

岩波新書の書評(495)成田龍一「歴史像を伝える『歴史叙述』と『歴史実践』」

岩波新書の「シリーズ・歴史総合を学ぶ」全三巻は、2022年4月から全国の高等学校で始まる「歴史総合」の新科目導入に合わせて、「歴史総合」授業の実践の方法とその可能性を、具体的個々の歴史素材の教材研究を通して指し示そうとするものである。今般、新た…

岩波新書の書評(494)十重田裕一「川端康成 孤独を駆ける」

岩波新書の赤、十重田裕一(とえだ・ひろかず)「川端康成・孤独を駆ける」(2023年)のタイトルになっている川端康成その人について、念のため確認しておくと、 「川端康成(1899─1972年)は、新感覚派(自然主義的リアリズムに反発し感覚的表現を主張した…

岩波新書の書評(493)堀尾輝久「教育入門」

私は教育学部出身ではないが、大学で教員免許取得のために「教育学概論」「発達心理学」ら教育系統の科目は履修していた。その際に講義を聴講しながら、また大学卒業後も「教育とは何か」「教育の本質とは!?」について、自分なりによく考えていた。教育学系…

岩波新書の書評(492)坂本賢三「『分ける』こと『わかる』こと」

(今回は、講談社現代新書、坂本賢三「『分ける』こと『わかる』こと」 についての書評を「岩波新書の書評」ブログですが、例外的に載せます。念のため、坂本賢三「『分ける』こと『わかる』こと」は岩波新書ではありません。) 私が高校生の時の1980年代の…

岩波新書の書評(491)國分功一郎「スピノザ 読む人の肖像」

2022年より岩波書店から新訳の新たな「スピノザ全集」全六巻が順次刊行・配本されている。岩波新書の赤、國分功一郎「スピノザ・読む人の肖像」(2022年)は、その新版の「スピノザ全集」刊行に合わせた今般、全集を購読して全巻読もうとする人に向けた「ス…

岩波新書の書評(490)廣野由美子「ミステリーの人間学」

岩波新書の赤、廣野由美子「ミステリーの人間学」(2009年)は、副題に「英国古典探偵小説を読む」とある通り、ドイルの「シャーロック・ホームズ」やチェスタトンの「ブラウン神父」シリーズ、クリスティの「アクロイド殺し」「オリエント急行殺人事件」の…

岩波新書の書評(489)南博「行動理論史」(岩波全書を読む5)

岩波全書の南博「行動理論史」(1976年)のタイトルになっている「行動理論」に関する基本の考え方はこうだ。 まず人間個人を特定の環境・時代状況下にあるブラックボックス(函数)と捉える。彼はブラックボックスであるので、特定の環境や時代状況下にて外…

岩波新書の書評(488)杉本栄一「近代経済学史」(岩波全書を読む4)

私は、一応は大学進学はしたけれど経済学部出身ではないし、大学で本格的に経済学を学んだ経験もない。しかし、なぜか杉本栄一「近代経済学史」(1953年)と内田義彦「経済学史講義」(1961年)が過去に自己流で読み散らかした経済学の書籍の中で特に自分の…

岩波新書の書評(487)岡義武「国際政治史」(岩波全書を読む3)

岩波全書の岡義武「国際政治史」(1955年)は、ヨーロッパ近代の国際政治の歴史を概観したものである。本書は第一章の「ヨーロッパにおける国際社会の成立」の欧州にて主権国家の成立たる絶対主義の出現より始まり、市民革命から帝国主権へ、さらには全体主…

岩波新書の書評(486)波多野精一「原始キリスト教」(岩波全書を読む2)

私が大学進学する前、まだ10代だった頃、日本近代文学を専攻して本格的に学んでいる人が、自分の学生時代には「近代とは何か、西洋の個人主義を本当の意味で理解するには、何よりもキリスト教を学び知っていなければならない」と指導教授に言われ、大学院生…

岩波新書の書評(485)家永三郎「日本道徳思想史」(岩波全書を読む1)

1938年に創刊の「岩波新書」は全て新作の書き下ろしで、時代社会の状況や世相に対応した話題の分野のトピックも含め、学術専門的な事柄でも初学の初心者にも分かりやすいよう「入門」の体裁で出されるものも多く、時代と共に歩んで一般読者に向け新書形態の…

岩波新書の書評(484)朝永振一郎「物理学とは何だろうか」

大学の物理学専攻の学部に進学志望であったり、将来物理の高等知識が必要な専門職種を希望するわけではない、あくまで一般教養として物理学を知っておきたい人が取り組むべき物理は次の2つであるように思える。 1つは、高校物理レベルの教科書や大学受験問…

岩波新書の書評(483)島田虔次「朱子学と陽明学」(儒教を考える その4)

岩波新書の青、島田虔次「朱子学と陽明学」(1967年)のタイトルになっている朱子学、陽明学のそれぞれの概要をまずは確認しておこう。 朱子学─宋の時代に朱熹(しゅき・朱子ともいう)によって大成された儒教で「新儒教」とされ、特に彼の名をとって「朱子…

岩波新書の書評(482)加地伸行「儒教とは何か」(儒教を考える その3)

(今回は、中公新書の加地伸行「儒教とは何か」についての文章を「岩波新書の書評」ブログですが、例外的に載せます。念のため、加地伸行「儒教とは何か」は岩波新書ではありません。) 今日、儒教とは何かを知りたい人には、そのままのタイトルである中公新…

岩波新書の書評(481)井波律子「論語入門」(儒教を考える その2)

儒教は、古代中国の孔子(前551頃─479年)を祖として、その孔子の教えを継承し発展させた思想・学派の総称である。孔子は、春秋戦国時代末期の魯(ろ)の曲阜(きょくふ・山東省)の人で周の政治を理想とし、魯の国政改革に参加したが失敗して諸国を巡歴した…

岩波新書の書評(480)武内義雄「儒教の精神」(儒教を考える その1)

1938年に創刊され、その初期配本として戦前に刊行された旧赤版の岩波新書の中で、すでに80年近く経た今日の2020年代以降でもいまだ増刷され続け、多くの読者に広く長く読まれている新書がある。例えば、旧赤版の斎藤茂吉「万葉秀歌」上下(1938年)や、同じ…

岩波新書の書評(479)ロビンス「組織行動のマネジメント」

(今回は岩波新書ではない、ロビンス「組織行動のマネジメント」についての書評を「岩波新書の書評」ブログではあるが、例外的に載せます。念のため、ロビンス「組織行動のマネジメント」は岩波新書ではありません。) 昨今では行動経済学や管理経営学、組織…

岩波新書の書評(478)佐藤正午「小説の読み書き」

「昨今活躍の人気作家が、自身が昔に読んだ文学作品の名著を岩波書店の月刊誌『図書』にて毎月紹介していく書評連載企画を後にまとめた岩波新書」という点で、岩波新書の赤、佐藤正午「小説の読み書き」(2006年)は一読して、同岩波新書の柳広司「二度読ん…

岩波新書の書評(477)中尾佐助「栽培植物と農耕の起源」

岩波新書の青、中尾佐助「栽培植物と農耕の起源」(1966年)は、しばしば実施される岩波新書の推薦書目のアンケート企画にて「必ず読んでおくべき名著」として昔から毎回、挙げられる定番で有名な書籍である。本書の概要はこうだ。 「野生時代のものとは全く…

岩波新書の書評(476)原武史「『昭和天皇実録』を読む」(その2)

近代日本における「昭和」は、大正天皇の死去(崩御)を受けて、昭和天皇が践祚(せんそ・天皇の位を受け継ぐこと)した1926年に始まる。この時、昭和天皇(天皇裕仁)は弱冠25歳。以後、昭和の時代の日本は急激に戦争にのめり込んで行く。1931年の満州事変…

岩波新書の書評(475)原武史「『昭和天皇実録』を読む」(その1)

戦前、戦中、戦後の昭和天皇(天皇裕仁)のその時々の意思や発言や行動を知る重要な史料に、原田熊雄「西園寺公と政局」(1950年)と「木戸幸一日記」(1966年)と「昭和天皇独白録」(1946年作成、1990年公開)と「昭和天皇実録」(2014年)がある。これら…

岩波新書の書評(474)田中美知太郎「古典への案内」

他社の新興新書と比べ、日本で最初の新書形態をとった古参の岩波新書に古代ギリシアの哲学や文学や美術の、いわゆる「古典」に関する新書が多いのは、昔は一般に「古典」と言えば主に古代ギリシア時代のそれであり、「プラトン全集」や「アリストテレス全集…

岩波新書の書評(473)川崎庸之「天武天皇」

「天武天皇(?─686年)。生年は不明、在位は673年から686年。舒明天皇と皇極天皇(斉明天皇)の子として生まれた。両親を同じくする中大兄皇子の弟にあたる。皇后は後に持統天皇となった。天智天皇の死後、672年に壬申の乱で大友皇子を倒し、その翌年に即位…

岩波新書の書評(472)桜井哲夫「〈自己責任〉とは何か」

(今回は、講談社現代新書の桜井哲夫「〈自己責任〉とは何か」についての書評を「岩波新書の書評」ブログですが、例外的に載せます。念のため、桜井哲夫「〈自己責任〉とは何か」は岩波新書ではありません。) 先日、講談社現代新書の桜井哲夫「〈自己責任〉…

岩波新書の書評(471)メチニコフ「近代医学の建設者」

私が住んでいる街には、私が気に入った古書店が何件かある。私は定期的にそれら古書店をひやかし半分で覗(のぞ)き、時に古書を買い求めたりするのだが先日、その内の一軒(カモシカ書店!)を覗いたら店頭の特価本の棚に戦前の岩波新書の旧赤版、メチニコ…

岩波新書の書評(470)高橋英夫「友情の文学誌」

岩波新書の赤、高橋英夫「友情の文学誌」(2001年)の概要は以下だ。 「文学者へ成長する漱石と子規。鴎外が遺書筆録を託した賀古鶴所。『近さ』からドラマを生んだ芥川たち。志賀直哉ら、師を持たない白樺派の世代。漢詩の世界、ギリシア・ローマ以来の言説…

岩波新書の書評(469)大島藤太郎「国鉄」

一般に「国鉄」とは、国が保有し、または経営する鉄道事業のことをいうが、日本においては特に「日本国有鉄道」の略称として用いられる。 最近の若い人は、もしかしたら知らないかもしれないが、現在各地域(北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州)にあ…

岩波新書の書評(468)岡本良一「大坂城」

大坂城は、戦国時代に上町台地の先端、摂津国東成郡生玉荘大坂に築かれた。大坂城は上町台地の北端に位置する。別称は「錦城(きんじょう)」。現在の大阪城は1930年代に再築されものである。「大阪城跡」として国の特別史跡に指定されている。また城址を含…

岩波新書の書評(467)千葉雅也「現代思想入門」

(今回は、講談社現代新書の千葉雅也「現代思想入門」についての書評を「岩波新書の書評」ブログですが、例外的に載せます。念のため、千葉雅也「現代思想入門」は岩波新書ではありません。) 昨今、人気で売れているという講談社現代新書の千葉雅也「現代思…

岩波新書の書評(466)五木寛之「日記」

以前に岩波新書に執筆し上梓して好評人気で跳(は)ねて、出版部数が伸びメディアにも頻繁に取り上げられ話題になったことを受けて、編集部依頼で岩波新書から連続して二冊目以降を出す運びになるも、前作が大ヒットの先例実績かあるため、「とりあえず今回…