アメジローの岩波新書の書評(集成)

岩波新書の書評が中心の教養読書ブログです。

哲学・思想・心理

岩波新書の書評(389)マルクス・ガブリエル「新実存主義」

近年、メディアで取り上げられる事が多い気鋭の若手の人気哲学者のマルクス・ガブリエルである。氏は1980年生まれであり、岩波新書「新実存主義」(2020年)を執筆時にはまだ30代と若い。マルクス・ガブリエルはテレビや雑誌らマスメディアへの露出が多い。…

岩波新書の書評(383)渡辺照宏「死後の世界」

私達は死の問題について無関心ではいられない。しかし、私達は死に関したはっきりしたことを何も知らない。「死後の世界は存在するのか、そもそも存在しないのか!?」こういう形で問題を提起しても、死後の世界の存在を誰も肯定することも否定することも容易…

岩波新書の書評(379)藤沢令夫「プラトンの哲学」

古代ギリシアの哲学者のプラトンについて、岩波新書では「プラトン三部作」というべきものがあった。斎藤忍随「プラトン」(1972年)と、藤沢令夫「プラトンの哲学」(1998年)と、納富信留「プラトンとの哲学・対話篇をよむ」(2015年)である。一つの新書…

岩波新書の書評(362)田中美知太郎「哲学初歩」

(今回は、岩波全書の田中美知太郎「哲学初歩」についての書評を「岩波新書の書評」ブログではあるが、例外的に載せます。念のため、田中「哲学初歩」は岩波全書であり、岩波新書ではありません。)政治学や法律学や経済学や教育学らとは異なり、哲学にだけ…

岩波新書の書評(356)河合隼雄「子どもの宇宙」

岩波新書の黄、河合隼雄「子どもの宇宙」(1987年)は昔からよく知られた新書だ。本書は「ひとりひとりの子どもの内面に広大な宇宙が存在することを、大人はつい忘れがちである」という趣旨で、子どもには大人や社会から矯正(きょうせい)してしつけられた…

岩波新書の書評(348)藤原保信「自由主義の再検討」

岩波新書の赤、藤原保信「自由主義の再検討」(1993年)は、「自由主義」を資本主義の経済と議会制民主主義の政治とひとまず規定し、それらに功利主義哲学の道徳も加えた上で、タイトル通りその「自由主義」を「再検討」しようとするものである。 「資本主義…

岩波新書の書評(344)山之内靖「マックス・ヴェーバー入門」

2020年は、社会科学者であるマックス・ヴェーバー(1864─1920年)の没後百年の節目に当たり、ヴェーバー関連の書籍が多く刊行されている。 マックス・ヴェーバーの何よりの学問的業績は「近代」の定義にある。西洋の「近代」を他から区別する根本原理は「合…

岩波新書の書評(342)末木文美士「日本思想史」

岩波新書の赤、末木文美士(すえき・ふみひこ)「日本思想史」(2020年)は、新書のわずか250ページ余で古代から近現代までの文字通りの「日本思想史」を一気に概観しようとする新書だ。このように限られた紙数の中で全時代の主要項目(主な思想家や思想や学…

岩波新書の書評(340)室伏広治「ゾーンの入り方」

(今回は岩波新書ではない、室伏広治「ゾーンの入り方」に関する文章を例外的に「岩波新書の書評」ブログに載せます。念のため、室伏広治「ゾーンの入り方」は岩波新書ではありません) 私は前からスポーツ選手がよく口にする「ゾーン体験」というものに興味…

岩波新書の書評(339)大塚金之助「解放思想史の人々」

岩波新書の青、大塚金之助「解放思想史の人々・国際ファシズムのもとでの追想・一九三五─四0年」(1949年)は、日本の敗戦後に再出発した岩波新書の新装の青版の第1回配本、シリアルナンバー1の最初の新書である。岩波新書の歴史を深く知りたい人は、この…

岩波新書の書評(336)鹿野政直「日本の近代思想」

岩波新書の赤、鹿野政直「日本の近代思想」(2002年)は、2000年代の21世紀へ移行の時代の節目に当たり、1901年から2000年までの近代日本の20世紀の100年を思想史の観点から振り返り総括しようという試みの新書だ。本書は「中日新聞」夕刊に2000年10月2日か…

岩波新書の書評(335)市川伸一「勉強法が変わる本」

岩波ジュニア新書は、10代の中高生向けに書かれた岩波新書のジュヴナイル(少年少女向け読み物)であるが、10代をすでに過ぎた大人が読んでも大変に面白く、ためになる良書も多い。それは岩波ジュニア新書には大人になっても人の人生にて大切で、かなり本質…

岩波新書の書評(334)田川建三「イエスという男」

(今回は、田川建三「イエスという男」その他についての文章を「岩波新書の書評」ブログではあるが、例外的に載せます。念のため、田川建三の著作は岩波新書には入っていません。)私は洗礼を受けたり定期的に教会に通ったりするようなキリスト者ではないの…

岩波新書の書評(327)中島義道「悪について」

ドイツ哲学専攻でカントが専門の中島義道に関して、私は案外に「よい読者」であるとは思う。振り返ってみれば中島義道の著作をだいたい私は読んでいる。ただし、この人は同時代の他のカント研究者らと読み比べてみて殊更に優れているというわけでもなく、む…

岩波新書の書評(321)松浪信三郎「実存主義」

「実存主義(エグジスタンシアリスム)」とは、人間の実存(現実存在)を哲学の中心におく思想であり、「実存は本質に先立つ」というように、普遍的・必然的な本質存在に相対立する個別的・偶然的な現実存在の優越を本来性として主張し思索する哲学の立場の…

岩波新書の書評(318)清水幾太郎「オーギュスト・コント」

岩波新書の黄、清水幾太郎「オーギュスト・コント」(1978年)のタイトルになっているコントその人について、まずは確認しておこう。「オーギュスト・コント(1798─1857年)。フランスの哲学者。実証主義を創始し、知識の発展を神学的・形而上学的・実証的の…

岩波新書の書評(315)なだいなだ「権威と権力」

岩波新書の青、なだいなだ「権威と権力」(1974年)は昔から知って何度か読んでいる。だが、本書に対する私の評価はあまり高くない。本新書は「権威と権力」の定義や異同の概要を述べたものであるが、著者のなだいなだが精神科医で作家であるためか、高校生…

岩波新書の書評(304)大平健「やさしさの精神病理」

岩波新書の赤、大平健「やさしさの精神病理」(1995年)のおおまかな話はこうだ。著者によると「やさしさ」というものには2種類ある。一つは人の心に寄り添い共感するタイプのやさしさである。もう一つは人の心を傷つけまいと相手と距離をとるやさしさだ。…

岩波新書の書評(303)佐々木毅「近代政治思想の誕生」

岩波新書の黄、佐々木毅「近代政治思想の誕生」(1981年)が昔から好きだ。本書は何度読んでも面白い。本新書の副題は「16世紀における『政治』」である。末語の「政治」がカッコ付けになっているのは、「本書は16世紀の近代政治思想を扱い論じてはいるが、…

岩波新書の書評(297)柄谷行人「世界史の実験」

文芸批評家の柄谷行人の岩波新書での仕事は、「世界共和国へ」(2006年)と「憲法の無意識」(2016年)と「世界史の実験」(2019年)の3冊がある。最初の「世界共和国へ」は岩波新書の1001点目に当たり、岩波新書は本書から装丁がリニューアルされた。もと…

岩波新書の書評(295)松村一人「弁証法とはどういうものか」

マルクスの著作ないしはその思想を読む際には、さまざまな読み方があるに違いない。マルクス「資本論」(1867年)に関して、マルクスの資本主義批判を好意的に理解し読み込もうとする共産主義者でも、またマルクスを批判し躍起になって否定しようとする反共…

岩波新書の書評(294)中村雄二郎「哲学の現在」

岩波新書は赤版、青版、黄版、新赤版とこれまでに4度カラーを変えている。青版を衣替えしての黄版の出発は1977年であった。新装黄版の発刊にあたり、岩波新書編集部は「岩波新書新版の発足に際して」の各冊巻末に収められる文章にて「戦後はすでに終焉を見…

岩波新書の書評(293)宮城音弥「性格」

岩波新書の青、宮城音弥「性格」(1960年)は、紙面にて著者の宮城が自ら言うように本新書は「性格学概論」ともいうべき内容である。著者は心理学における性格の研究を踏まえて、性格学にての各種の性格類型を紹介し、その概要を解説する形で本論は進む。 例…

岩波新書の書評(278)内田義彦「社会認識の歩み」

岩波新書の青、内田義彦「社会認識の歩み」(1971年)はマキャヴェリ、ホッブズ、スミス、ルソーら先人たちの「社会認識」のあり様を読み解くことを通して、社会科学における「社会認識の歩み」を歴史的に概観しようとするものだ。その際、著者の内田義彦は…

岩波新書の書評(275)務台理作「現代のヒューマニズム」

東映実録のヤクザ映画「仁義なき戦い・代理戦争」(1973年)にて、菅原文太が「仁義のない」ヘタレ極道の室田日出男の親分裏切りの寝返りに激怒し、「おどりゃア男らしくせい!親分がおらんでも最後まで戦うのが極道じゃないんか」と啖呵(たんか)を切る場…

岩波新書の書評(274)佐藤金三郎「マルクス遺稿物語」

マルクス「資本論」(1867年)に間する書籍といえば、「資本論」精読とか「資本論」を介したマルクス主義入門的なものが昔から多くあるが、岩波新書の赤、佐藤金三郎「マルクス遺稿物語」(1989年)はそれら書籍とは少し勝手が違っている。本書はマルクス「…

岩波新書の書評(265)稲垣良典「現代カトリシズムの思想」

近年(2017年)、岩波新書の青、稲垣良典「現代カトリシズムの思想」(1971年)が復刊されていたので先日、読んでみた。岩波新書編集部による本新書の公式紹介文は以下だ。 「社会があらゆる面で大きな転換期を迎えた時代において、カトリック思想は何を思考…

岩波新書の書評(261)見田宗介「社会学入門」

岩波新書の赤、見田宗介「社会学入門」(2006年)は他の方の書評にてよく評されるように、タイトル通りの理論的な「社会学入門」というよりは、その「社会学入門」のさらに一歩手前の初歩に位置する、これから社会学を学ぶ人へ向けて社会学の原初の心得を説…

岩波新書の書評(259)鹿野政直「岩波新書の歴史」

岩波新書の赤、鹿野政直「岩波新書の歴史」(2006年)は、同赤版の岩波書店編集部「岩波新書をよむ」(1998年)の続編に位置するような新書だ。前書「岩波新書をよむ」では1998年までの総目録掲載で中断していたものが、本書「岩波新書の歴史」では「付・総…

岩波新書の書評(253)馬場紀寿「初期仏教」

紀元前5世紀前後に北インドにてガウタマ=シッダルタ(仏陀、ブッダ)によりおこされた仏教にて、後の各地域への伝播に伴う仏教そのもの(思想や教団)の変容を踏まえ、開祖たるブッダの教えに比較的忠実な正統(オリジナル)なブッダから直の古い仏教を「原…