アメジローの岩波新書の書評(集成)

岩波新書の書評が中心の教養読書ブログです。

哲学・思想・心理

岩波新書の書評(250)田中浩「ホッブズ」

イギリスの哲学者・政治学者であり、経験論と唯物論に基づき社会契約論(より正確には統治契約論)を展開して「リヴァイアサン」(1651年)を著したトマス・ホッブズ(1588─1679年)は、ピューリタン革命の時代に活動した。 父親が牧師であったホッブズは英…

岩波新書の書評(248)今井むつみ「ことばと思考」

私は一時期、哲学の認識論や認知心理学の書籍をよく読んでいたことがあった。自分の外部にある物事や他者の対象世界を雑多に知るよりは、自分が物事を認識して理解する自己内の認知の原理的な構造(機制)を知ることの方が自身にとってより本質的で優先の事…

岩波新書の書評(247)沢田允茂「現代論理学入門」

昨今、「論理的であること」が異常に持てはやされ論理的思考(ロジカルシンキング)流行りである。「論理的」でありさえすれば自身の中で理路整然とした思考ができて聡明になり、他者に対しても有利に説得交渉できるとするような「論理」に関する異常なほど…

岩波新書の書評(246)宮城音弥「超能力の世界」

岩波新書の黄、宮城音弥「超能力の世界」(1985年)の概要はこうだ。 「物理的な力を加えずに物体を動かしたり曲げたりする超能力とか念力とかいわれるもの、またテレパシーや透視、未来の予知などが、よく人びとの口にのぼる。これらの超能力現象については…

岩波新書の書評(239)武者小路実篤「人生論」

戦前昭和に出版された岩波新書の赤、武者小路実篤「人生論」(1938年)に関しては、「まさか君は武者小路の『人生論』を真面目に読んで、今更ながら人生の極意を学びたいなどと本気で考えてはいないだろうね」と思わず釘を刺したくなる衝動に毎度、私は駆ら…

岩波新書の書評(237)ビュァリ「思想の自由の歴史」

今どき教養主義というのも流行らないが、改めて「教養とは何か」を定義するとすれば以下のようになろうか。「教養とは、独立した人間が持っているべきと考えられる一定レベルの様々な分野にわたる知識や常識と、古典文学や芸術など質の高い文化に対する幅広…

岩波新書の書評(222)神谷美恵子「生きがいについて」

(今回は、神谷美恵子「生きがいについて」の書評を「岩波新書の書評」ブログではあるが、例外的に載せます。念のため、神谷「生きがいについて」は岩波新書には入っていません。) みすず書房「神谷美恵子著作集」全10巻にての、神谷美恵子の公式紹介文は次…

岩波新書の書評(221)市井三郎「歴史の進歩とはなにか」

岩波新書の青、市井三郎「歴史の進歩とはなにか」(1971年)の大まかな話はこうだ。人間にとっての「歴史の進歩とはなにか」形式的な理屈をいえば、「進歩」とは時間と共に変わる変わり方が価値的によい方向へと向かうことである。ところが、本書にも書かれ…

岩波新書の書評(219)山本光雄「アリストテレス」

西洋哲学史にてプラトンとアリストテレスは、哲学思考の原型をなす二大潮流と言える。プラトンは万物の多様な表層を捨象して原理を見透かし、あぶり出す抽出能力の世界の単純原理化に卓越した哲学者であった。かたやアリストテレスは万物の表層を保持し物事…

岩波新書の書評(218)加藤節「ジョン・ロック」

岩波新書の赤、加藤節「ジョン・ロック」(2018年)は「生涯、思想の解読、ロックの思想の現代的意味」の主に三つの内容からなる。そもそもジョン・ロックその人に関しては、 「ジョン・ロック(1632─1704年)はイギリスの哲学者・政治学者。哲学者としては…

岩波新書の書評(217)山我哲雄「キリスト教入門」

岩波ジュニア新書は10代の中高生向けに書かれた岩波新書のジュヴナイル(少年少女向け読み物)であるが、そうしたティーンエイジャーが読むライトな読み物と思って軽い気持ちで読んでいると、文章表現は易しいけれど内容が思いの外、本格的であり高度で「も…

岩波新書の書評(209)カー「歴史とは何か」

岩波新書の青、カー「歴史とは何か」(1962年)は有名な古典の名著で、岩波新書の創刊節目の読者アンケートにていつも上位にランクインする新書であるし、特に大学生には昔から必ず読むように勧められる定番の推薦書だ。カーの「歴史とは何か」についての書…

岩波新書の書評(201)小田実「『民』の論理『軍』の論理」

岩波新書の黄、小田実「『民』の論理『軍の』論理」(1978年)は、「民の論理の基本の態度」たる、過去の悲惨(広島・長崎への原爆投下やベトナム戦争など)に学んで非人間的なやり方ではなく人間的やり方で問題を解くことと、問題をできるだけ人々全体に行…

岩波新書の書評(200)木田元「現象学」

岩波新書の青、木田元(きだ・げん)「現象学」(1970年)は広く読まれている有名な名著ではあるが、本書に対し「タイトルに偽(いつわ)りあり」という思いが、昔は私は拭(ぬぐ)えなかった。本新書のタイトルは「現象学」であるけれど、書籍の全体で現象…

岩波新書の書評(199)滝浦静雄「時間」

西洋哲学史において、存在論と認識論とは昔から主な理論支柱をなしてきた。そもそも「事物や世界が存在するとは、どういうことなのか」その意味を突き詰めると、人間主体の外部に分離独立して事物が先天的に存在している素朴実在論ではなくて、物事が存在す…

岩波新書の書評(198)栗原康「アナキズム」

2018年11月に創刊80周年の節目を刻んだ岩波新書にて、同年同月に配本された新赤版の栗原康「アナキズム」(2018年)は、岩波新書の長い歴史の中で相当に新奇な新書であり、後々まで「異色の岩波新書」として折に触れ話題になるに違いない。何はともあれ、ま…

岩波新書の書評(196)権左武志「ヘーゲルとその時代」

岩波新書の赤、権左武志(ごんざ・たけし)「ヘーゲルとその時代」(2013年)の書き出しはこうだ。「ある思想や哲学がその時代を支配する時、われわれの考え方を特定の溝へ流し込み、行動を一つの方向へ導く見えざる力、時には恐るべき力を発揮するものであ…

岩波新書の書評(189)岡本清一「自由の問題」

人間の自由について、「自由とは拘束の欠如」とよく言われる。しかし、そうした何ら拘束されず強制のないことを「自由」とするのは人間の本来的な自由ではない。加えて、そういった束縛や強制なく、常に自分のやりたいように自身の欲望の赴(おもむ)くまま…

岩波新書の書評(185)内田義彦「読書と社会科学」

スミスを始めとしてマルサス、リカードらの古典派経済学とマルクスの近代経済学と、河上肇の日本経済思想史の研究で知られる、内田義彦の岩波新書の著作は「資本論の世界」(1966年)と「社会認識の歩み」(1971年)と「読書と社会科学」(1985年)であり、…

岩波新書の書評(184)清水幾太郎「論文の書き方」

岩波新書の青、清水幾太郎「論文の書き方」(1959年)は、論文・レポート作成教授の古典の新書で昔からよく知られている。ただし「論文の書き方」のタイトルではあるが、「このように準備して段階を踏んで、こうした手順に従って論文執筆を行うべき」という…

岩波新書の書評(183)小森陽一「岩波新書で『戦後』をよむ」

岩波新書の赤「岩波新書で『戦後』をよむ」(2015年)は各分野専攻の大学教授ら、いわゆる「プロの読み手」の三人が「戦後」に刊行された岩波新書から、それぞれの時代状況を如実に反映したり、発行当時に大きな反響があり広く読まれた戦後日本社会の、その…

岩波新書の書評(179)松浪信三郎「死の思索」

岩波新書の黄「死の思索」(1983年)を執筆した松浪信三郎は、サルトルの著作の日本語訳を手掛けており、また氏による岩波新書として青版の「実存主義」(1962年)も以前にあった。そもそも実存主義とは、人間の実存(現実存在)を哲学の中心におく思想であ…

岩波新書の書評(178)今井むつみ「学びとは何か」

岩波新書の赤、今井むつみ「学びとは何か」(2016年)を一読後の感想は、「岩波新書が昨今流行の能力開発の自己啓発本を出したら、このような新書になるのか」の率直な思いだ。 ただし著者は本書を、そうした昨今の世に出回っている凡百(ぼんぴゃく)な能力…

岩波新書の書評(172)中村雄二郎「問題群」

哲学者の中村雄二郎による岩波新書は、まず「哲学の現在」(1977年)と「術語集」(1984年)と「問題群」(1988年)があって、これが中村の「岩波新書三部作」と呼ばれている(らしい)。後に「術語集」の続編「術語集2」(1997年)も岩波新書から出ている…

岩波新書の書評(170)小塩力「聖書入門」

「価値判断は相対的」である。私達が物事に対し、ある一定の価値判断を下す時、常にそのものだけを見つめて唯一の絶対的判断を下している訳では決してなくて、意識的であれ無意識的であれ、実は他の同種なものと比較考量し、その結果「これは良い」とか「こ…

岩波新書の書評(168)島崎敏樹「生きるとは何か」

岩波新書の青、島崎敏樹「生きるとは何か」(1974年)を読むたび、私は連続して神谷美恵子「生きがいについて」(1966年)と「人間をみつめて」(1971年)も再読したくなってしまう。事実、本書にて島崎敏樹が記しているように、岩波新書「生きる意味」は以…

岩波新書の書評(162)ノーマ・フィールド「天皇の逝く国で」

(今回は、ノーマ・フィールド「天皇の逝く国で」についての書評を「岩波新書の書評」ブログではあるが、例外的に載せます。念のため、ノーマ・フィールド「天皇の逝く国で」は岩波新書には入っていません。) 私は昔から格別に悔しがったり、何かに対し激怒…

岩波新書の書評(161)永田広志「日本思想史研究」全三巻

(今回は、永田広志「日本思想史研究」全三巻についての書評を「岩波新書の書評」ブログではあるが、例外的に載せます。念のため、永田「日本思想史研究」内の著作は岩波新書には入っていません。)時折「これは相当な名著であり、この人はかなりの書き手だ…

岩波新書の書評(158)高島善哉「社会科学入門」

戦後の日本の社会科学研究は実によく出来ていて、社会科学における「理論、歴史、政策」の三つの部門のうちの「歴史」、歴史的遡行(そこう)の概観にて、法学でも政治学でも経済学でも対象人物の詳細な実証的研究というよりは、その歴史人物の研究を通して…

岩波新書の書評(155)高桑純夫「人間の自由について」

岩波新書の青、高桑純夫「人間の自由について」(1949年)は、本新書の表紙をよく見ると青地カラー上にあるタイトル表記「人間の自由について」にて、「人間」と「自由」の文字だけ微妙に太く濃いポイント印字になっている。「人間」と「自由」の二語こそが…