アメジローの岩波新書の書評(集成)

岩波新書の書評が中心の教養読書ブログです。

経済・社会

岩波新書の書評(236)立石泰則「戦争体験と経営者」

岩波新書の赤「戦争体験と経営者」(2018年)の著者・立石泰則は、本新書上梓時には企業取材を始めて約四十年になるという。そんな著者による岩波新書「戦争体験と経営者」の概要はこうだ。これまで立石が出会って取材した企業経営者をいま一度振り返り彼ら…

岩波新書の書評(235)大日方純夫「警察の社会史」

岩波新書の赤、大日方純夫(おびなた・すみお)「警察の社会史」(1993年)の概要は以下だ。 「日露戦争直後、東京市の警察署の八割が襲撃される日比谷焼打ち事件がおきた。だが、わずか十数年後、関東大震災では『自警団』が登場し、民衆はすすんで『治安』…

岩波新書の書評(227)山本浩「スポーツアナウンサー」

「スポーツアナウンサー」といえば、1970年代生まれの私には80年代にアントニオ猪木の新日本プロレスの金曜夜8時のテレビ中継が絶頂人気で、その際の古舘伊知郎の実況が定番だったりする。当時は小学生で今でもよく覚えているが、「アントニオ猪木の鉄拳制…

岩波新書の書評(215)首藤若菜「物流危機は終わらない」

以前にNHKスペシャル「トラック・列島3万キロ・時間を追う男たち」(2004年)という秀逸ドキュメンタリーがあった。より早く、より効率的に、一方でより安全に。物流が急速に変化する中、トラック業界では生き残りを賭(か)けた競争が続いていた。睡眠を極…

岩波新書の書評(210)平岡昭利「アホウドリを追った日本人」

人間そのものの醜悪さや人間社会の不条理を鋭い問題意識と手慣れた論証手腕とによって明白にし過ぎているため、一読してよく出来た良書とは思うのだけれど読んでいてあまりに辛(つら)い、正直面白くない書籍が時にある。岩波新書の赤、平岡昭利「アホウド…

岩波新書の書評(202)宇野弘蔵「資本論の経済学」

例えば西洋哲学史や日本史概説など、ある特定テーマの研究書籍は、今さら新規な大発見や「目から鱗(うろこ)」の大胆な読み直し解釈など不可能で、だいたい誰が執筆しても似通った内容になってしまう。そういった意味で、この手の内容書籍では「誰が書いて…

岩波新書の書評(197)日野行介「福島原発事故 被災者支援政策の欺瞞」

岩波新書の赤、日野行介「福島原発事故・被災者支援政策の欺瞞」(2014年)の表紙カバー裏には次のようにある。 「福島原発事故をめぐって、被ばくから自主避難者(母子)や子どもを守るべく作られた法律は、なぜ、どのようにして骨抜きにされたのか。現場か…

岩波新書の書評(192)大田堯「教育とは何かを問いつづけて」

以前に読んで内容は忘れてしまっていても、タイトルが抜群に良くて題名を鮮明に覚えている書籍が時にある。岩波新書の黄、大田堯(おおた・たかし)「教育とは何かを問いつづけて」(1983年)は、タイトルがいつまでも強烈に記憶に残る。そういった新書だ。…

岩波新書の書評(191)林香里「メディア不信」

岩波新書の赤、林香里「メディア不信・何が問われているのか」(2017年)の概要はこうだ。 「『フェイク・ニュース』『ポスト真実』が一気に流行語となり、世界同時多発的にメディアやネットの情報の信憑性に注目が集まる時代。権威を失いつつあるメディアに…

岩波新書の書評(190)今野晴貴「ブラックバイト」

「ブラックバイト」という言葉は昔からある用語ではなく、近年の社会問題を反映して作られた造語である。その意味は以下のようになる。「ブラックバイトとは、ブラック企業になぞらえた造語であり、学生の大多数が法令(特に刑事法や労働法)に無知であるこ…

岩波文庫の書評(188)向坂逸郎「資本論入門」

私が高校生だった頃、「世界史講義の実況中継」(1991年)という大学受験参考書があった。著者の青木裕司という人は、九州大学文学部史学科出身の方で、本参考書執筆時には河合塾の福岡校で世界史を教えていて、後述するまさに向坂逸郎のような、マルクス主…

岩波新書の書評(177)川崎泉「動物園の獣医さん」

世の中には自分の知らない職業や知っている職種でも裏側の本当の仕事のあり様は一般に知られていないものが多く、社会にて働く人が従事する様々な仕事の話を聞いたり読んだりするのは面白い。岩波新書の黄、川崎泉「動物園の獣医さん」(1982年)も、そうい…

岩波新書の書評(153)森川智之「声優」

普段からアニメや映画の日本語吹き替えやドキュメンタリーを観ることは多いが正直、私は特に声優を気にして鑑賞することは、これまであまりなかった。岩波新書の赤、森川智之「声優」(2018年)は、現役の人気声優であり、またプロダクション経営もなす著者…

岩波新書の書評(146)辰濃和男「文章の書き方」

読書と文筆はあたかも車の両輪のようであり、世間の人は「多くの本を読んで、たくさん文章を書け」と気軽にいうが、なかなか難しいものだ。そういったわけで昔から読書論と文章術の二大分野があり、その種の書籍は実に多くある。今回の「岩波新書の書評」で…

岩波新書の書評(144)ピーターセン「日本人の英語」

岩波新書の赤、ピーターセン「日本人の英語」(1988年)は、私にとっては大変に懐かしい新書だ。本書が出された1980年代、私は高校生で大学受験英語を学んでいて、最近では英語の大学受験参考書も理論的に掘り下げて親切に教えてくれる良書が多く出されてい…

岩波新書の書評(139)原田正純「水俣病」

以前に、報道写真家の桑原史成が水俣に行って撮った水俣病患者の一連の写真集を見ていて、患者らは近海で捕った魚介類を介して発病したにもかかわらず、発病後も日常的に魚を食べ続けている食事の場面の多くの写真を目にし、私は不思議に思ったことがあった…

岩波新書の書評(138)国谷裕子「キャスターという仕事」

以前に国谷裕子が出演していた時からNHKのニュース報道番組「クローズアップ現代」を私はよく視聴していて親密があったので、岩波新書の赤、国谷裕子「キャスターという仕事」(2017年)を先日、読んでみた。 国谷裕子は幼少時から父親の仕事の関係で海外生…

岩波新書の書評(135)斎藤貴男「安心のファシズム」

岩波新書の赤、斎藤貴男「安心のファシズム」(2004年)の副題は「支配されたがる人びと」であり、その概要はおよそ以下である。「携帯電話、住基ネット、ネット家電、自動改札機など、便利なテクノロジーにちらつく権力の影。人間の尊厳を冒され、道具にさ…

岩波新書の書評(130)岩波書店「図書 はじめての新書」

岩波書店が出している月刊誌「図書」の「岩波新書創刊80年記念」に当たる臨時増刊「はじめての新書」(2018年)を先日、入手しつらつらと読んでいた。 2018年で岩波新書は創刊80周年を迎える。岩波新書は1938年に日本で生まれた「はじめての新書」である。サ…

岩波新書の書評(127)小林丈広「京都の歴史を歩く」

岩波新書の赤「京都の歴史を歩く」(2016年)を一読しての感想は、「岩波が京都の観光案内本を作ると、このような真面目で硬派な観光ガイド本になってしまう」の期待通りの良読後感である。本書は三人の京都の歴史学者による共著であり、それぞれ小林丈広(…

岩波新書の書評(126)石原真「AKB48、被災地へ行く」

秋元康がプロデュースのアイドル・グループ「AKB48」について、私はCDを購入したりライヴに参加するようなファンではなく、またアイドル全般にもそれほど明るくないが、しかし世間並に知ってはいた。 AKB48のメンバーの指原莉乃の実家が近所にあり、以前に指…

岩波新書の書評(112)齋藤孝「読書力」

明治大学文学部教授(教育学)の齋藤孝その人に対して、私は前から陰ながら注目していた。「齋藤孝は一応は大学教授であり、物事を一般の人よりは深くよく知っている知識と教養ある人であるはずなのに、この人は相当にヒドイ。齋藤孝と彼のファンの読者は、…

岩波新書の書評(99)鶴見良行「バナナと日本人」

岩波新書の黄、鶴見良行「バナナと日本人」(1982年)は昔からある書籍で、岩波新書の中でも古典の名著と言ってよい。「フィリピン農園と食卓のあいた」という本書の副題から「フィリピン(バナナ)農園」の貧しさと「(日本人の)食卓」の豊かさを対比のコ…

岩波新書の書評(75)池田潔「自由と規律」

岩波新書の青、池田潔「自由と規律」(1949年)は副題が「イギリスの学校生活」であり、英国のパブリック・スクールについて述べたものだ。 著者によれば、ケンブリッジ、オックスフォードの両大学は英国型紳士修業と結びついて有名だが、あまり知られていな…

岩波新書の書評(72)梅棹忠夫「知的生産の技術」

最近では書店に行くと自己啓発本(勉強法、記憶術、発想法、集中法、読書術、速読法、ノート術、情報管理術、時間管理術、文章作成術、モチベーションの維持・強化の方法など)の勢いが誠にすさまじく、そのジャンルの書籍が売場本棚の一角を大きく占めるま…

岩波新書の書評(64)尾木直樹「いじめ問題をどう克服するか」

先日、尾木直樹という人が書いた岩波新書の赤「いじめ問題をどう克服するか」(2013年)を読んだ。 著者のことはメディアを介して知っていた。この人は現場教師の経験もある教育評論家で、案外いい年をした大人な男性だが、オネエ言葉で話すような女性的キャ…

岩波新書の書評(59)中内敏夫「軍国美談と教科書」

岩波新書の赤、中内敏夫「軍国美談と教科書」(1988年)は、とても面白い。戦前の日本にて「軍国美談」が学校「教科書」紙面に大きな比重を占めていた「軍事教材の歴史」を通しての著者による軍国主義的教育批判の大枠がまずあって、さらにその国家から民衆…

岩波新書の書評(58)暉峻淑子「豊かさとは何か」 橘木俊詔「格差社会」

以前に岩波新書の赤、暉峻淑子(てるおか・いつこ)「豊かさとは何か」(1989年)と「豊かさの条件」(2003年)を読んだ時に、現代の日本社会の「豊かさ」欠如の問題を指摘してはいるが、量質ともに「真の豊かさとは何か」についての考察が欠落しており、物…

岩波新書の書評(54)NHK東海村臨界事故取材班「朽ちていった命」

(今回は、新潮文庫「朽ちていった命」についての書評を「岩波新書の書評」ブログではあるが、例外的に載せます。念のため、「朽ちていった命」は岩波新書ではありません。)福島第一原発の放射能漏(も)れ事故がいまだ継続中で、終息の出口が見えない状態…

岩波新書の書評(50)上田紀行「生きる意味」

岩波新書の赤、上田紀行「生きる意味」(2005年)の概要は以下だ。 「私たちがいま直面しているのは『生きる意味の不況』である。…経済的不況が危機の原因だと言う人は多い。しかし、私たちの多くは既に気づいている。景気が回復すればすべてが解決するのだ…