アメジローの岩波新書の書評(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。岩波新書の書評が中心の教養読書ブログです。

岩波新書の書評(409)指原莉乃「逆転力」

(今回は、講談社AKB48新書、指原莉乃「逆転力・ピンチを待て」についての書評を「岩波新書の書評」ブログですが、例外的に載せます。念のため、指原莉乃「逆転力」は岩波新書ではありません。)

先日、指原莉乃「逆転力・ピンチを待て」(2014年)を読んだ。著者の指原莉乃は日本のアイドルでありタレントである。彼女に関しては、

「指原莉乃は1992年11月21日生まれ、大分県出身。2007年の『AKB48・5期生オーディション』に合格し、2008年3月よりAKB48のメンバーとして活動開始。後に博多を拠点に活動するアイドルグループHKT48・チームHの中心メンバーとして活躍。また、HKT48劇場支配人も兼任した。2013年のAKB48総選挙で1位を獲得。センターポジションで歌った『恋するフォーチュンクッキー』は大ヒットし、AKB48の代表曲のひとつとなっている」

秋元康がプロデュースのアイドル・グループ「AKB48」について、私はライヴ参戦したり握手会に参加したりするような熱心なファンでは全くないが、テレビなどを介し、それとなく見ていてアイドル活動をするAKB48のメンバーたちや、彼女らを熱烈に応援するファンに対し昔から一貫して気の毒な思いがしていた。常設の劇場を持ち定期的に自公演を行うAKB48のアイデアに関し、プロデューサーの秋元康は「会いに行けるアイドル」のコンセプトで、昔にあった唐十郎の紅テント「状況劇場」の演劇集団や、今もある宝塚歌劇団にヒントを得て模した旨を表向きの公式コメントでは出しているけれど、私からすればAKB48は、どう見ても夜のクラブやラウンジの店舗経営システムそのもので、アイドルの彼女たちの活動は、そのまま夜の店で働くホステスのそれである。秋元康ら運営はAKBグループの設立・活動に当たり、夜のクラブの経営システムから発想し、それを相当に参考にしているフシが私には見受けられた。

AKBグループは定期的に握手会をやり、その握手券の個人売上や、年に一度開催される選抜総選挙(発売CDに投票券が1枚同封されていて、1人何票でも投票できるので投票券目的でCDを複数枚大量に購入するファンもいて、AKBのCDセールスは毎回、軽く100万枚を越えるという。いわゆる典型的な「おまけ商法」である)の結果の順位で、メンバーのグループ内での歌の立ち位置の序列やメディア露出の量質が決まる。そのためメンバーは自分を熱烈に応援し、握手会や総選挙で自分に多額の金銭を費やしてくれる「推し」を持つ人や「太ヲタ」と称されるファンを日々の劇場公演や握手会で、それとなく気を持たせて「釣る」行為にて集め確保しなければならない。また彼女らに釣られる「推し」を持つ人や「太ヲタ」も、自分が応援するメンバーをAKBグループの中で少しでも高い順位の上位の序列に押し上げるために、ただ応援するだけでなく、握手券を大量購入したり総選挙のたびに個人で複数枚数の大量投票を重ね、かなりの多額の金銭を費やしてAKBグループ内でのアイドルの序列争いの過熱した競争にファンは「応援」という形で金銭を絡め多額の出費を伴って、いつの間にか巻き込まれてしまうわけである。

これは夜の街で多少なりとも遊んだ経験のある人なら以下の同一にすぐに気付く。夜の店でホステスが日々の指名や同伴の回数、客に入れさせたボトルの本数、嬢の誕生会やクリスマスら店のイベントでの個人売上ら各種の指標に基づき、ホステスたちを熾烈(しれつ)に競争させる。だから彼女らは、自分に多額のお金を使ってくれるお得意の上客をいつも探しているし、時に客に気を持たせたり、それなりのテクニックで集客し、店でのホステス序列にて「ナンバー1」を目指す。その競争に客の方もいつの間にか巻き込まれて、定期的に同伴・来店のお願い連絡がホステスからあったり、来店してテーブルで飲んでいればフルーツの注文など暗にせがまれたりして彼女の売上応援のためについついお金を使ってしまう。

AKB48は、どう見ても夜のクラブやラウンジの店舗経営システムそのもので、アイドルの彼女たちの活動は、そのまま夜の店で働くホステスのそれである。秋元康ら運営はAKBグループの設立・活動に当たり、夜のクラブの経営システムから発想し、それを相当に参考にしている。だから、私はAKB48をメディアを介しそれとなく見ていて、アイドル活動をするAKB48のメンバーたちや、彼女らを熱烈に応援するファンに対し、ホステスとその客が夜の店の苛烈な競争システム下にて店のオーナーや支配人やママの経営陣から、本人たちはほとんど気付いていないが、ホステスが過酷な営業を強いられ、さらにその客がホステスからかなりの散財を要求される構図とそのまま同一であるので、同様にアイドルである彼女らと、その「推し」を持つ人や「太ヲタ」の人たちは、自分達では全く気付いていないだろうけど、秋元康らAKBグループの運営から上手い具合にいいように営業利用されていて昔から一貫して気の毒な思いがしていたのである。

そうしたAKBグループに所属し、かなりの成功を収めた指原莉乃の「逆転力」、ピンチの時に自分を救ってくれて、遂には自分の方から積極的に「ピンチを待」つようにまでなるという(笑)、壮大で絶大な力である「逆転力」の内実は、やはり、そのまま夜の店で働くホステスの知恵や営業努力のスキルもどきなのであった。指原莉乃「逆転力」に書かれてある力内容の主なものは、例えば以下だ。

「正統派をあきらめる」(AKB48の研究生としての活動が始まってすぐ、「私には正統派アイドルは無理だな」とあきらめた。容姿のビジュアルでも歌もダンスもパフォーマンスも全般に劣る自分は「イジられキャラ」だったので、「私はしゃべるしかないな」と。MC(トーク)で頑張った方が自分がAKBで輝く近道だ、とかなり早い段階から確信した)

「キャラは作るのではなく、受け入れるもの」(集団の中で自分の居場所を作ったり、目立ったりするためにはキャラ付けが大事。自分から「こういうキャラでいく」と決めるのではなくて、人に振ってもらったキャラを自分が受け入れて、周りに面白がってもらう。例えば「へたれ」や「ブスネタ」の受け入れなど、自分からプライドを捨てて周囲にイジられることでキャラが立ち、皆に受け入れてもらえるようになる)

「すごく偉い人にはフランクに、ちょっと偉い人には丁寧に」(すごく偉い、偉すぎる人って心が広い。あまり尊敬モードで緊張してしまうよりも友達モードでいく方が、むしろ面白がってもらえる。逆に、中途半端に偉い人は、ちょっとの無礼がムカつく。ちょっとの無礼に敏感なので、なるべく低姿勢でいく。すごく偉い人とちょっと偉い人へのコミュニケーションを間違ったら、まずい)

本書にて指原莉乃が「逆転力」と称している、「正統派をあきらめる」とか「キャラを作って自分を売る」というのは、夜の店のホステスが昔から日常的によくやっていることだ。容姿や体型に自信がないホステスは「正統派美人の高嶺の花」路線をあきらめて、「親しみやすい庶民派の三枚目おもしろ」担当で客を盛り上げて自分が生き残る道を探したりする。また「すごく偉い人にはフランクに、ちょっと偉い人には丁寧に」という「逆転力」の秘訣も、夜の店の嬢の営業テクニックとして定番で常套(じょうとう)だ。会長や社長ら昼間の社会で「すごく偉い人」は皆に丁寧に、時に緊張されて親密に応対されないから、そういう人が夜の街で飲んで、ホステスに「友達モード」でフランクに接せられたり、あえて最初から彼女の計算づくで時に無愛想に、わざと横柄に接客されたりして、それが「すごく偉い人」には新鮮で「この子は面白い」とか「彼女は見どころがある」で気に入られ、「すごく偉い人」を上得意の自分の上客にしてしまうことはよくある。

これら指原莉乃の「逆転力」は、そのまま夜の店で働くホステスの知恵や営業努力のスキルもどきだ。ただし指原本人は、AKBグループのそれと夜の店のシステムとが同一発想の同世界であることに(おそらくは)気付いていない。そのまま誇らしげに「逆転力」として本書で語っているけれど。

以前、テレビ番組であるお笑いタレントが、匿名の中学生が友達ができず学校内で孤立している悩みの相談を受けて、「学校での孤立を回避し、一躍クラスの人気者になる一発逆転には教室全員のキャラを分析して、まだ誰もやっていない、いわゆる『他人と被(かぶ)らないキャラ』を見つけて、それを演じろ!」などというアドバイスをしていた。彼は自分が芸能界で上手く立ち回り売れるために、自身が率先して実際にそうしたキャラの発掘や特定キャラを演じ抜くことをやって自分の売り込みに効果があったので、そのようなアドバイスを本当の親切心から素直に一般の中学生にしているかもしれないが、10代の若い人にかける良識ある大人からの言葉として、これは相当に無責任でヒドい助言であると私は思う。

このお笑いタレントの荒唐無稽なアドバイスは、指原莉乃の「逆転力」の無理さ加減にも通じる。「キャラは作るのではなく、受け入れるもの」(集団の中で自分の居場所を作ったり、目立ったりするためにはキャラ付けが大事。「へたれ」や「ブスネタ」でも何でも、人に振ってもらったキャラを自分が受け入れて周りに面白がってもらえ)←こんなことは絶対に無理。10代の若い人は、そのまま夜の店で働くホステスの知恵や営業努力のスキルもどきの「逆転力」を実行しては駄目だ。もっと自分を大切にして下さい。本来の自分ではないのに処世のために、あえて自分とは違うキャラを演じるなど、そんなことを人は若い頃からやってはいけない。

私達が日常で生きている一般の社会と、芸能界や夜の街のホステスの世界や、その夜の店舗システムと同発想でそれを相当に参考にし模しているAKB48のグループ内社会は明確に違う別世界なのだから、AKBグループ内で自身の生き残り戦略としてある指原の「逆転力」の書籍を一般の人は読んで、そのまま真に受けて実践してはいけない。

指原莉乃「逆転力」を手に取り読む読者層は、どのような人達なのだろうか。AKB48のファンや指原莉乃のファン、あとアイドルに憧れる小中高生や大学生ら10代の若い人も多くいるに違いない。上述以外のその他の指原莉乃の勧める「逆転力」として、

「好感度を貯金する」(あいさつは超重要。どんなに疲れていても裏方のスタッフにもメンバーの家族にもできるだけ笑顔で相手の目を見て、しっかりとあいさつをする。私が丁寧にあいさつする姿を誰かが見てくれているかもしれない。好印象がゲットできる。好感度が貯金される)

というのもある。だが、私達が日常の生活で人に会って挨拶するのは、他人から自分へ向けての好印象を引き出すために、そうするわけではない。挨拶という行為に、そういった打算や下心を忍び込ませてはいけない。挨拶の行為は当たり前にやられるもので、それには特別な意味やその行為が本人にもたらす利益など、そもそもない。「人に会ったら挨拶するのは常識で当たり前」。本来はその程度の話でしかない。「あいさつをするのは自分にとっての好感度貯金」などど、責任ある社会人の大人が若い人に安直に教えてはいけない。

指原莉乃はアイドルで確かにAKB48のグループ内で人気で売れて、芸能界で成功を収めた人だから、彼女は自身を現在の成功に導いた「逆転力」の正当性を少しも疑わず誇らしげに語っているけれども、それは、そのまま夜の店で働くホステスの知恵や営業努力のスキルもどきだし、指原本人はAKBグループのそれと夜の店のシステムとが同一発想の同世界で、一般の人が暮らす現実社会とは明確に異なる別世界であることに(おそらくは)全く気付いていない。そのため、やはり本書を読んで最後の最後まで指原莉乃を含め、アイドル活動をするAKB48のメンバーたちや、彼女らを熱烈に応援するファンに対し可哀想というか、昔から一貫してどこか気の毒な思いが私の中で強く残る。