アメジローの岩波新書の書評(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。岩波新書の書評が中心の教養読書ブログです。

岩波新書の書評(126)石原真「AKB48、被災地へ行く」

秋元康がプロデュースのアイドル・グループ「AKB48」について、私はCDを購入したりライヴに参加するようなファンではなく、またアイドル全般にもそれほど明るくないが、しかし世間並に知ってはいた。

AKB48のメンバーの指原莉乃の実家が近所にあり、以前に指原さんの親族と知り合い仲間のグループと飲み屋で隣のテーブルに鉢合(はちあ)わせたことがあった。こちらも楽しく飲んでいて店内の皆が酒が入ってよい頃合いに酔って気分よくなっており、個室でないので隣のテーブルの話し声の大声が、別にこちらは聞く気はないのに通路を越えて自然に聞こえてしまう。とりあえず、親族や知り合い一同が指原さんを全力で応援していて皆に妙に自信と勢いとがある。あたかも「自分たちがすでに天下をとった」ような(笑)。「身内から映画スターやアイドルなど、芸能人が出て社会的成功を収めるのはスゴいものだな」の感慨を率直に私は持った。

岩波ジュニア新書、石原真「AKB48、被災地へ行く」(2015年)の概要は以下である。

「アイドルとして自分たちの出来ることをやろう!AKB48グループの東日本大震災での東北の被災地訪問活動は2011年5月から、毎月1回一度も欠かすことなく続けられている。即席のステージで行われるミニライヴや握手会に参加したメンバーの数はのべ450人以上にのぼる。さまざまな形で続けられる被災地の人々との交流。メンバーたちは、どのような思いでこの活動に参加し何を感じているのか?メディアで取り上げられることの少ない、人気アイドルたちの知られざる活動をこれまで公開されていない多数の写真とともに紹介する。アイドルの知られざる活動の記録」(裏表紙解説)

本書は岩波新書であるにもかかわらず、カラー写真掲載が多い。新書ではなくて、まるで写真集のような鮮(あざ)やかな紙面である。いつもの読み慣れている岩波新書とは少しばかり勝手が違う(笑)。アイドルのライヴ・ステージや被災地の人々との握手会や記念撮影の交流写真が主で、とても華やかである。とりあえずAKB48のアイドル衣装が目を惹(ひ)く。本書だけでなく普段、テレビや雑誌で見ていた時から私は密(ひそ)かに感心していた。素人目にAKB48は衣装が良いと思う。一般の学生服のブレザーを派手に大胆に改変した若者風の衣装などだ。しかも一人だけでなく、大人数でそろえて着用すると一層インパクトが出て非常に映(は)える。被災地訪問にてもメンバーはアイドル衣装着用であるが、本書に掲載されている多くの写真を見ていて私はなぜか衣装に目がいってしまう。衣装のバリエーションも多種多様、実に多い。アイドルAKB48の衣装担当の方は、きっと大変であるに違いない。

「AKB48、被災地へ行く」といった、アイドルの被災地訪問活動はボランティアに該当する。ボランティアの定義といえば、とりあえずは「自発的、無償性、社会的に役立つこと」の三点である。

まず何よりもボランティアは「自発的」でなければならない。無理矢理に強制的に動員参加させたり、ボランティア従事者から「実はノルマを課せられて嫌々来ました」とか、「ボランティアに参加することで単位認定されるので本意ではないけど活動参加してます」の申告があれば、それはもう失言以外の何物でもなく話にならない。またボランティアは「無償性」であるべきだ。直接に金銭を要求しなくても、活動の見返りとして何か物品寄与されたり、食事や寝床を外部からボランティアに入った人達が現地の人に暗に要求したり、結果的に現地の人がボランティア人員に提供せざるをえなくなる状況に至るのもよくない。そうならないようボランティア従事者は事前に考えて活動参加するべきだ。「ボランティア活動履歴があることで後の自身の進学や就職や昇進に有利になる」の下心を持ってやるのも、「ボランティアは無償性」の定義に反する。

さらにボランティアは「社会的に役立つこと」でなければならない。役に立たずに逆に迷惑をかけたり、作業を遅延させる行為につながることがあってはならない。最近の笑い話で、災害被災地への救援支援物資にわざわざ千羽鶴や励ましの寄せ書き色紙を送るなど、さすがにこれは笑い話なので実際にはないらしいが、仮にそうしたことをするのは現地の人達にとって全く社会的に役に立たず、ただ単に迷惑なだけなので(千羽鶴や寄せ書き色紙を送るくらいなら、むしろ水や食料や毛布など役に立つものを送るべき)、それは正しいボランティアとはいえない。

よく高校生への小論文指導でボランティアがテーマの課題の場合には、以上のようなボランティアの三定義「自発的、無償性、社会的に役立つこと」を必ず何らかの形で小論中に書き入れるよう促すのが論文指導での定石(じょうせき)である。こうしたボランティアの三つの定義を述べずに、何となく漠然と「ボランティアはよいものだ。継続して参加活動することが大切」と主張したり、はたまたボランティアに参加した際の自身の経験談を具体例として書き入れるだけでは論点のぼやけた曖昧(あいまい)な論述になってしまう。そうしたボランティアの「自発的、無償性、社会的に役立つこと」の三つの要素を押さえて記述していない小論文は事実、採点評価は低くなる。

岩波ジュニア新書「AKB48、被災地へ行く」の著者は石原真という人である。本書の奥付(おくづけ)を見ると、著者はNHK番組制作の人で過去にAKB48グループのドキュメンタリーの映像作品を手がけた人であるらしい。本書には東日本大震災直後の2011年5月から始めた、毎月1回のAKB48グループの被災地訪問の詳細を2011年5月22日の第1回から2015年8月20日の第52回まで、訪問地やその時の参加メンバーを事細かに記録している。その際、当日のライヴや握手会やステージ裏の写真、参加メンバーの発言や言葉に出来ない思い、彼女たちの涙と被災地の人々との交流や歓迎の様子を収めている。特に目立つのはアイドルの彼女らとアイドルを慕(した)って応援する子どもたちとの交流の姿で、文章を読んで写真を見てさすがに心を打つものがある。

ただ震災被災地訪問に関し、前述のようなボランティアの三定義「自発的、無償性、社会的に役立つこと」に明確に触れていない点が私には少し残念な思いもする。中高生ら若い人達が読むことを想定している岩波ジュニア新書として正直、物足りない思いがする。「メディアで取り上げられることの少ない、人気アイドルAKB48の彼女たちの知られざる活動をこれまで公開されていない多数の写真とともに紹介する」というように、著者の石原真は、派手で華やかに思われがちだが、実のところ人気アイドルの定期的な被災地訪問の地道で継続的な活動の大切さの意味を強く読み手に訴えかける内容にしている。そうした「ボランティア活動は継続して続けることが大切」以外の、「自発的、無償性、社会的に役立つこと」に絡(から)めたボランティアの話の広げかたも論述の工夫次第で、いくらでも出来るはずだ。

本書には被災地訪問を通して、「自分たちはアイドルとして何かできることがあるのだろうか?」「彼女たちは、どのような思いでこの活動に参加し何を感じているのか?」著者の石原真以外のAKB48メンバー自身の直接の声や手記も掲載されている。なかでもHKT48メンバーの宮脇咲良による一連記述の長い文章が心に残る。被災地訪問でのライヴ終わりに、津波で中学生だった息子を亡くした女性から「息子の為に1本でもいいので、お線香をあげてもらえますか?」と声をかけられ、そのまま仮設住宅にあるAKB48ファンであった息子さんの仏壇に宮脇らメンバーが焼香に行く話、宮脇咲良の手記がある(64─69ページ)。心のこもった気持ちの入った非常によい文章だと私は思った。