アメジローの岩波新書の書評(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。岩波新書の書評が中心の教養読書ブログです。

岩波新書の書評(142)大内兵衛「私の読書法」

岩波新書の青、大内兵衛他「私の読書法」(1960年)は、岩波書店が出している月刊誌「図書」にての連載「私の読書法」が当時ちょうど連載二十回の節目を迎えた契機に出そろった二十人による「私の読書法」二十篇を再録の形で一冊の新書にまとめたものだ。

本書には、各執筆者による「私の読書法」というエッセイを介した珠玉(しゅぎょく)の読書法が披露・掲載されてある。執筆者は当時1960年代、第一線で活躍中の知識人、文化人、作家、俳優らであり、2000年代に入った現在でも私としては尊敬に値する数々の名著を残した相当に頭がキレて優秀な人達ばかりであって、もはや感激する他ない。それほどまでに偉大な錚々(そうそう)たる先人による「私の読書法」の読書術指南の新書である。

本書に掲載の「私の読書」寄稿の二十人、その中で私が特に気に入っているのは、清水幾太郎「主観主義的読書法」、杉浦明平「一月・一万ページ」、加藤周一「読書のたのしみ」、蔵原椎人「乱読から批判的読み方へ」、大内兵衛「このごろの読書」、梅棹忠夫「行動中心の読書」、田中美知太郎「ノートを取る場合と配合を求める時」、宮沢俊義「読書法というもの」、渡辺照宏「病床の読書」、鶴見俊輔「戦中・戦後の読書から」、松田道雄「両棲類的読書法」あたりか。

一人当たりの寄稿枚数少なく(せいぜい10ページ程度)簡潔であり的確である。だから、すぐに読めて「私の読書法」の要領をつかめる。なかには読書術としてそこまで参考にならないものもあるが、主に岩波新書を通して知っている、その人の読書エッセイが手軽に読めるだけで嬉しいことも確かだ。

「私の読書法」の読書術は各人各様であるが、それでも本新書に掲載された「読書法」にてほとんどの人が表現は違えど重複して挙げている、ほぼ皆に共通する「読書の方法」が実はある。これだけの人が「私の読書法」を各自、自由に奔放に語って、しかし自然と重複し結果、同じ結論にたどり着いてしまうのだから、その方法は効果的な読書術として普遍性があって定番であり有効、必ずや良いものに違いない。その定番普遍で効果的な本書に寄稿のプロの書籍の読み手兼書き手たる多くの人達が日々、実践している「私の読書法」を挙げるとすれば、それは次の二つに集約される。

(1)できる限りの多読(時には乱読・濫読)を心がける。(2)読書の内容を必ずメモしてノートに残す。

岩波新書「私の読書法」を読んでいると、いずれも各人皆が(1)のような多読(時に乱読)を自ら実践し、読者にも強く勧めている。とりあえず読書の要訣は多読して出来るだけ多くの書籍を短期間に密度濃く継続的に読むことだ。「多読をやると消化不良で理解不足になる、一冊の書物とじっくり向き合う機会なく、かえって有害」云々の考えは取り払うべきだ。多読して気に入った自分にとって精読に値する大切に読み返したい書籍に出会えたなら、多読の中で同じ本を再読か再々読すればよいだけのことである。読書に限らず何でもそうだが、「ある程度の量をこなさないと質は向上しない」。個人の中で、その人が生涯の内に読むことのできる書籍の総冊数は決まっているはずで、だが、とりあえず読んだ書籍数の総量の分母を広げれば広げるほど、その中で自身の身になる幸せな本との出会い、幸運な読書経験の機会も確率的に倍増していくわけである。結果、豊かな読書生活を送ることが出来る。

さて、多読をするべきことが分かれば次に「どうやれば多読できるようになるか」を考えなければいけない。この点についても、岩波新書「私の読書法」にて各人からの非常に参考になる傾聴すべき貴重なアドバイスが数多く載せられている。一般化してまとめると、例えば個人が一日の中で本を読める読書のための時間は限られているのだから、いついかなる状況でも、たとえ短時間であっても常に書籍を携帯し読書に励む(通学・通勤の移動中、食前と食後、仕事の休憩時間、就寝前の読書習慣など)。複数冊を同時進行で平行して次々に読む。内容が分からなくても無理をして先を読み続ける。要は読む動作の作業を中途で止めてしまうと、多読はできない。ないしは自分に合わないと感じた書籍は断念して読むことを即あきらめる決断が挙げられている。

なかには飲酒と喫煙の習慣は読書時間の確保と書籍購入の懐(ふところ)に有害だから、多読のためには酒と煙草をやめるべきのアドバイスもある。さらには「枕下に書を置いて眠る」(そうすることで、その書籍の内容に関する夢を見ようと試みる)といった極めて怪しい「私の読書法」まである(笑)。

(2)に関しても誠に面白いことに、各人の具体的な実践方法の詳細は異なるが、どの識者もほとんどの人が共通一致して、読書の際には読んだ内容を必ずメモしてノートなどに残す「私の読書法」を読者に勧めている。各人によりメモの仕方はそれぞれであり、本に直接書き入れる、付箋(ふせん)メモを該当ページにはさむ、ノートに書き留める、ルーズリーフやカードを作成し活用するの様々な方法があるようである。だがしかし、基本の「決して読みっぱなしにせず、読書内容を必ずメモしてノートに残す」やり方は、かなり定番で有効であると言えそうだ。

確かに、私の経験からしても本を読む際は必ず要旨やポイントをノートにまとめるし、グラフ・図式化したり、良い文章があれば、そのまま書き抜き全て書き写してそれとなく分析し時に参考にしたりする。考えがまとまらない時や文章作成にてうまく構想できない時は、とりあえず今考えていることを全て書き出して自身の思考を視覚化し客観化させると、欠落の穴や議論の全体像や順序が見えて次に考えるべきこと・書くべきことが分かり、停滞していた作業が前に進むことは実際よくある。私の実感からしても「私の読書法」としての読書の際のメモ作成には深く共感できる。