アメジローの岩波新書の書評(集成)

岩波新書の書評が中心の教養読書ブログです。

岩波新書の書評(151)成毛眞「面白い本」

岩波新書の赤、成毛眞「面白い本」(2013年)は、著者が太鼓判を押す「これは面白い!」のノンフィクション書籍を100冊紹介する内容だ。世評の読書アンケートにて本新書があまりにも人気で評判がよいので先日、手にして読んでみた。

本書は「面白い本」を100冊、全9章に分けてリストアップしている。当然、紙数の限られた比較的薄い新書にての100冊紹介なため1冊あたりの解説文は少ない。1冊につき1ページ程しかない。実際に読んでみて本格書評というよりは、軽妙で面白いコメントを付した読書リストのカタログ広告本といった印象だ。著者は「この本は面白い!」というが、「一体どこが面白いのか、なぜ面白いのか、掘り下げてより詳しく教えてもらいたい」の率直な思いが残る。

近年の主にネット社会にて流通人気の書籍の文章術は、理性的に精密に深く感得させて読ませるよりも、もはや感性的に見る「カタログ文化」の文章記述というか、読む文章であっても特定の狭い間口の読者に対し突っ込んで腰を据えて細かに掘り下げて語るよりは、瞬間的に広く人々の耳目を集め注目させ関心を持たせて、そのまま読ませる読書行動にまで不特定多数の人を誘導する技術(テクニック)が必要で、そのためには時に突飛な語り口や面白いインパクトのある言葉の選択、読む動機に即つながる目的・効用の抜け目ない宣伝と、出来うる限り短くまとめて終わらせる無駄に読み手を甘やかす、忍耐や根気を要求しない情報量や難易度や文章容量の軽短さへの配慮、そういう書籍が好まれる読書のあり様なのだと思う。

残念ながら最近の読者は、誘導テクニックの突飛な語りや面白いインパクトのある言葉、読む動機に即つながる目的・効用の直接提示、忍耐や根気を要求しない読み手への配慮がなければ、もはや書籍を読んではくれないのである。そして私は、そうした軽佻浮薄(けいちょうふはく)な読書傾向をどちらかと言えば嫌悪するのだけれど。

岩波新書の赤、成毛眞「面白い本」は、何よりも著者の書く紹介・推薦の文章が今風で適度に軽く面白い。例えば以下のような本新書の紹介文は一見、考えなしに即興(インスタント)で軽く書かれているように思えて、実のところ戦略的に事前に十分に練ってよくよく考えて周到に記述されている。

「面白いにもホドがある!書評サイトHONZの代表が太鼓判を押す、選りすぐりの面白本100冊。ハードな科学書から、シュールな脱力本まで。いずれ劣らぬ粒ぞろい。一冊でも読んだら最後、全冊読まずにいられなくなる。本代がかかって仕方がない、メイワク千万な究極ブックガイド」

「面白いにもホドがある!」の一言フレーズのコピー的文章の書き出しの入り方。また「ホドがある」や「メイワク千万」のカタカナの使い方も絶妙だ。普通なら「迷惑千万」と書くに違いない。だが、あえて「メイワク」だけカタカナにして崩す。こうした文章記述は、読み手に与える読感の効果まで考え事前に計算して書くとなると実はなかなか大変なはずで、密(ひそ)かに私は感心する。