アメジローの岩波新書の書評(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。岩波新書の書評が中心の教養読書ブログです。

岩波新書の書評(311)高須俊明「酒と健康」

私は昔から酒が好きで、しかも体質的に酒に強い。いくら痛飲しても酔っ払って記憶が飛んだとか、翌日に二日酔いの頭痛や不調に悩まされた経験がない。だから今でもほぼ毎日、飲酒する。

酒飲みというのは、自宅で晩酌すると長時間飲んできりがなく家人に嫌われるので、だいたい行きつけの店のカウンターで独り飲む。最初はグラスビールで二杯目から日本酒に変えるか、そのままビールで行くかだ。ビールと日本酒は若い頃からいつ飲んでも旨(うま)いと心底、感じる。昔、河島英五という酒飲みの歌手がいた。「酒と泪と男と女」(1976年)や「時代おくれ」(1986年)といった河島英五の歌は、酒を飲みながら静かに聴くと「いい歌だな」としみじみ思う。

先日、岩波新書の黄、高須俊明「酒と健康」(1987年)を読んだ。もちろん、晩酌ついでに酒を飲みながら(笑)。著者の高須俊明は神経内科学専攻の医学博士である。本新書で私が感得したり、自分にとって参考になった特筆すべき内容は次の2点だ。

(1)時にアルコールが消毒薬物に使用される良イメージから、昔より「酒は百薬の長」であり、過度の痛飲は慎むべきだが、適度の飲酒はかえって身体によいの俗論がある。しかしながら神経系、内蔵、血管、胎児の各分野別にアルコールの人体への影響を医学的見地から詳しく検討してみると、微量の飲酒であっても酒は健康に良くない。アルコールそのものが生命活動に害である。アルコールには細胞物質的にみて薬理学的効用はない。せいぜい言って軽い酩酊による抑うつ状態緊張の解除、気分の高揚、ストレス発散の心理的効果しかない。著者は本新書にていう、「酩酊の効用とは、突きつめていくとこの程度のものである」。

(2)具体的な酒の害については、急性飲酒の害(悪酔い、異常酩酊、急性アルコール中毒)と、長時間に渡る大量飲酒、常に酩酊状態の酒への精神的かつ身体的依存の問題(アルコール依存)がある。特に若年層の酒害の問題が深刻である。また妊娠中の女性の慢性多量飲酒は、胎児に悪影響を与える。幼児の知能障害の要因の一つは、胎盤を通過して母体から流れてきたアルコールの作用といわれている。妊娠中の女性における母体の慢性多量飲酒は避けるべきである。

(1)については、私は昔から酒を飲むし、これからも継続習慣的に晩酌するであろうが、「酒が人間の肉体に全く良くないこと。健康に少しも益がないこと。精神面でのストレス発散の効用はともかく、細胞レベルの科学的見地からして飲酒は害悪でしかないこと」の飲酒のリスクは分かっているつもりである。だから、毎日「酒は身体に悪いこと」を覚悟しながら、かつ絶対に深酒の痛飲はしないと決めている。(2)に関しては、大学生が新歓コンパで一気飲みをして急性アルコール中毒で若くして亡くなったり、妊娠中の女性が多量飲酒して結果、流産したり、発育不良や先天的な障害を持って産まれた胎児の報告事例のニュースを耳にすると心が痛む。

私は昔から文学者の大江健三郎のファンで、特に大江の初期作品を繰り返し愛読してきた。大江の「個人的な体験」(1964年)や「万延元年のフットボール」(1967年)を読むたびに、「これから子供を産んで育てる若い夫婦は過度の飲酒をしてはいけない。決して酒に溺(おぼ)れてはいけない」と強く思う。大江健三郎「万延元年のフットボール」の主人公の一人、鷹四の作中渾身(こんしん)の台詞(せりふ)は、「もう飲むな。人生はしらふでやってゆかなければだめだ」であった。

「近年、日本では酒の消費量が激増し、その結果、酒害に悩む人びとも増加している。ことに肝臓ともども神経を病むケースが多い。長年にわたり神経内科学の研究と診療に携わってきた著者が、酒の消費の現状、酒の薬理、アルコール依存、神経と内臓への影響などについて最新の知識を紹介し、酒を人生の友にするための知恵を提示する」(表紙カバー裏解説)