アメジローの岩波新書の書評(集成)

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岩波新書の書評(335)市川伸一「勉強法が変わる本」

岩波ジュニア新書は、10代の中高生向けに書かれた岩波新書のジュヴナイル(少年少女向け読み物)であるが、10代をすでに過ぎた大人が読んでも大変に面白く、ためになる良書も多い。それは岩波ジュニア新書には、大人になっても人の人生にて大切で、かなり本質的なことが中高生に向けて易しく分かりやすい丁寧な言葉と解説で、しかし内容は本格的に踏み込んで精緻(せいち)に良心的に記述されているからだ。

岩波ジュニア新書の市川伸一「勉強法が変わる本」(2000年)も、そうした岩波ジュニアの中での輝ける良書の内の一冊である。本書の副題は「心理学からのアドバイス」である。「学習」「推論」「理解」について心理学の観点から教育実践研究をしている著者が10代の中高生に向けて、主に認知心理学の理論に裏打ちされた実践的で効果のある勉強法のアドバイスを具体的に分かりやすく解説提案している。本新書は「いくら勉強してもわかるようにならない」や「ちょっとした問題でも間違えてしまう」といった若い中高生のみならず、「大人の勉強法読本」として学校を卒業した社会人の大人が読んでも大変に参考になる。以下、本書での著者による「勉強法」のアドバイスの概要をまとめてみる。岩波ジュニア新書「勉強法が変わる本」は、「記憶する」と「理解する」と「問題を解く」と「文章を書く」の4つの各章よりなる。

まず「記憶する」について。(1)反復練習は多くの動物に見られる普遍的で効果的な学習行動であるので、物事を記憶するには「反復」と繰り返しの「確認」が必須である。その際には「集中学習」(時間を詰めて短期間で一気に覚える)よりも、「分散学習」(毎日少しずつ時間をかけて長期間で覚える)の方が記憶には効果的である。(2)よく覚えていない所や間違えた所や自分が苦手な所をマークし、リストアップして(自身にとっての「間違えノート」や「弱点ノート」を作成し、覚えることをあぶり出して重点化するとよい)、記憶すべき事柄の優先順位をあらかじめ決めてから合理的な時間配分の上で覚えるようにする。(3)人間は、ただ繰り返して記憶するだけでなく、情報を相互に関連づけて覚える方法を(たとえ無意識であれ)やっている。よって記憶の際には学習事項どうしの関連をつかむことで記憶は促進される。そのためには規則や原因・理由や対立の物事相互の関係を発見すること、図表や関係図を書きながら学習事項の大きな流れを把握することが大切である。(4)特に「スキーマ」(すでに自分が知っている事柄、自分の中にある既有知識の体系のこと)に架橋させ、既有知識たるスキーマに依拠しながら新情報を自分の中で関連づけ組み込む要領で頭の中に新たな知識体系を作り上げていくようにする。(5)認知心理学では、コンピューターになぞらえて人間の情報処理のモデルを考えている。情報の貯蔵庫モデルでは、短期貯蔵庫の中で情報の反復記憶と確認を繰り返すと、やがては長期間貯蔵庫へ移り「短期記憶」が「長期記憶」となって、いつまでも忘れずに覚えている、俗にいう「記憶力が優れている」ということになる。 (6)認知心理学には記憶に関し「処理水準説」というのがある。その説によれば人間の記憶処理には3つの形態があり、「形態的処理」(単に見て認知して覚える)、「音韻的処理」(声に出して音読で覚える、語呂合わせの音で覚える)、「意味的処理」(知識を相互に関連づけたり、既有知識のスキーマに関係づけて覚える)の順に情報処理精度が高まり、そうした記憶の深まりにつれて長期の記憶ができるという理論である。よって長期記憶を心がけるには、最初から「意味的処理」に重点を置いて記憶した方がよい。

次に「理解する」について。(1)物事を理解するには、その物についての「抽象原理」と「具体例」の次元の異なる2つの要素があることをまず押さえ、抽象原理(定義や公式の把握)と具体例(現実データや個別問題への適用)の両面からつぶしていくことが必須である。(2)図や公式はそれを構造化してとらえ、「なぜそのようになるのか」の原理的理由を常に確認しながら自明性による省略や唐突な説明の飛躍を避け、着実に丁寧に理解を進めるとよい。(3)自分が理解して分かっているのかが、あやふやな時には、人に説明できるかどうかで自身の理解度をチェックするとよい。また改めて他人や自分自身に向けて客観的に筋道立てて説明することで、そのものへの理解が飛躍的に高まることがある。(4)文章を読んで理解するということは「筋の通った解釈を作り上げる」という一種の問題解決であるから、そのためには以下の3つの知識が必要であり、日頃から文章理解のための3つの知識の獲得と充実に努めておくべきである。すなわち、「言語的知識」(知っていて使える日常的語句を増やし、ある分野に特有な専門用語も事前に多く知り、かつ文法知識をより精密化させて言葉を幅広く正しく使えるようにしておく)、「社会に関する基礎知識」(その文章のテーマや議論に関する様々な知見、いわゆる「背景知識」を広く深く知り、自分の中での既有知識の体系である「スキーマ」の拡充に常に努める)、「社会経験的な知識」(自己や他者の感情や人間関係にまつわる反応や予測についての読み取り能力を現実の経験から学び自身の中で明確にして、それを文章を読む際に進んで生かすようにする。結果、文章をより広い高い観点からより深く読んで理解し共感できるようになる)。(5)物事の理解には「ボトムアップ処理」(まず部分から認知して、やがて全体への理解につなげる、いわゆる「木を見てから森を見る」)と、「トップダウン処理」(まず全体を認知して、次に部分への理解につなげる、いわゆる「森を見てから木を見る」)がある。文章理解の際には「トップダウン処理」を積極的に使うと、迅速な情報処理に有効である。例えば、長い文章や書籍を読む際には最初に目次や見出しを確認しておき、全体のおおよその論旨を把握して内容予測しながら、次に部分精読の読解をするとよい。英文を読むときも、意味の分からない英単語が出てきてもすぐに辞書で調べず、前後の文脈や全体の要旨から単語の意味内容を推測する訓練を日頃の学習時より心がけておく。

さらに「問題を解く」について。(1)問題処理や問題解決に必要なのは、やみくもに、いきなり問題を解くのではなく、最初に「問題そのものを理解する」(「どのようなタイプの系列の類型問題で、どういった知識や解法を要する問題か」分析し的確に把握する。問題の型や種別に関する自分の中での既有知識、いわゆる「問題スキーマ」に照らし合わせる)と、「解決方法を考える」(どういった原理や公式を使って、どのような手順で効率的かつ具体的に解くか考え、実際の問題解答に着手する)の2つが必須である。最初からいきなり問題を解いてはいけない。まずは問題そのものを分析せよ。(2)一般に問題解決とは「初期状態から目標状態に至る操作の系列を見出だすこと」と定義される。世の中の問題には、問題自体がはじめからはっきりと定められていないことが多いが、学校で扱う試験の定式化された問題解決はその基礎としての意義がある。問題自体を明確化することや、一般的な解決方針を使って解を粘り強く探索する姿勢を学生時代の試験勉強を通して学び、大人になり社会に出てからの人生の問題解決にも生かすべきである。(3)逆に学校のテストの場合は、問題が明確にあって試験当日の本番で問題が解ければよいのだから、試験勉強の際には自力で解くことにこだわらず、解答や解き方が分からない場合は無駄に時間を費やさずに、すぐに答えを見て問題の解法を学習するとよい。「試験当日の本番で必ず完答できるようにする」という最終目標から逆算して、「そう出来るためにはどういった試験勉強を事前にやればよいか」を常に考え、限られた時間の中で効率的に学習することが学校のテスト勉強のやり方の常道である。(4)中高生の数学には、「数学は暗記だ」の解法暗記派(和田秀樹)と「数学は自力で解いて考え方のセンスを磨く」の自力解決派(吉永良正)の2つの異なる考え方がある。どちらか一方だけ選択するのではなく、基本問題に対しては前者の「解法暗記派」の考えを取り入れ「問題スキーマ」の拡充に貢献する必修の基礎知識として解法を「暗記」し記憶しておき、他方で応用問題や難問に対しては後者の「自力解決派」の立場を支持して、基礎知識の「問題スキーマ」に加え、その場で自分の頭で「自力」で考え問題を解く実力をつけるようにする。「解答暗記派」と「自力解決派」の両方を臨機応変に上手に使い分けていくことが重要である。(5)単に問題を解き流して放置するのではなく、「なぜ自分はうまく解けなかったのか」や「この問題を解くことによって何がわかったのか」という「教訓」を毎回の問題演習から引き出して記憶しておく。問題解決の経験(特に失敗した経験)からポイントをつかみ、「教訓」として生かす習慣が大切である。(6)難問や複雑な問題に出会ったときには、「こうだといいのに」と考え、そうなるための手を探し出すような「自分の既知なものや得意な典型パターンに変換して持ち込む」工夫をするとよい。

最後に「文章を書く」について。(1)小論文を書くには、課題文をきっかけにして自分の問題として考える姿勢が必要である。しかも自身の経験を踏まえるというだけでなく、それを改めて見つめ直して分析的にとらえたり、そこでの問題意識をより大きな問題として広げてみるとよい。小論文では、どれだけ考えを深めて練り上げられたかが評価として問われるし、そのことは小論文以外での自分の実人生のためにもなる。(2)長めの論説を読んで自分の主張を書く場合には「読解メモ」で課題文の要旨をまとめ、「連想メモ」で思いつく材料を書き出し、「構成メモ」で論旨を整理して下書きを作るとよい。「読解メモ」や「連想メモ」や「要旨メモ」の各種のメモ作成が文章記述には有効である。メモによる視覚的な助けによって、そこからイモヅル式に知識やアイデアが連想されたり、構成を考える手がかりになる。(3)課題文に賛成するにしても反対するにしても、自身の立場を明確にして論理構成を考え、読み手の反論の可能性にも言及しながら自分の主張を補強することで説得力のある文章になる。「偏(かたよ)った強引な意見や限定的で狭い考察になっていないか」「自己満足な論述に終始し、独りよがりで読み手を置いてきぼりにしていないか」「読み手に反論や疑問を次々に起こさせるような杜撰(ずさん)な議論になっていないか」など、絶えず自分の文章を客観視し推敲(すいこう)に努める。「他者の視点を繰り込み自己内に内在化させることで思考が多面的になり、洗練されていく原理」を理解し知っておくべきである。(4)文章は頭の中で既に考えてあることの写しではない。現実に書いたものを自分で読み直すことを通して考えが深まるのである。だから、実際に書き出してみて初めて自分の考えが客観化でき、新たな考えや書くべきことを思いつくことも多い。書くという行為を通じてこそ、人は自分の考えを前に進めたり、新しい考えを出したりできる。よって何を書いてよいか分からず迷う時は、構想メモでも下書きでもよいから、実際にとりあえず文章を書き始めることこそが効率的な文章作成術といえる。