アメジローの岩波新書の書評(集成)

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岩波新書の書評(366)鎌田雄一郎「ゲーム理論入門の入門」

近年、岩波新書から「××入門の入門」という経済数学の初学者向けのシリーズ新書が出ており、私は本シリーズを楽しみながら連続して読んでいた。例えば、坂井豊貴「ミクロ経済学入門の入門」(2017年)や田中久稔「経済数学入門の入門」(2018年)や鎌田雄一郎「ゲーム理論入門の入門」(2019年)といったラインナップである。

田中「経済数学入門の入門」に明確に書かれてあるが、「××入門の入門」というのは「予備知識なしで読める入門以前の入門」であり、「本書を読むために必要な経済学の事前知識はない」のであって、かつ「高校生程度の数学の知識があれば十分に理解可能」という意味が込められているという。なるほど、いずれの書籍も全くの前知識なく、経済学や数学の非専門家の一般読者でも他の参考文献の補助なく、そのまま「入門の入門」の新書一冊を読んだだけで、とりあえずの初級レベルは理解習得できるような分かりやすい説明記述の工夫がなされている。

今回は岩波新書の新赤版「入門の入門」シリーズの中で、鎌田雄一郎「ゲーム理論入門の入門」(2019年)について書いてみたい。

「ゲーム理論とは、ある種の意思決定を人間が行った結果、何が起きるかを予測する理論だ。と言うと何やら難しげに聞こえるが、実は単純明快、初学者でもすぐ使いこなせる理論なのだ。相手の出方をどう読むか。社会経済問題の分析だけでなく、ビジネスの戦略決定にも必須の基礎知識を、新進気鋭の理論家があざやかに解説する」(表紙カバー裏解説)

本書は全六章よりなる。第1章で「ゲーム理論とは」の総論の導入を行い、第2章から「ナッシュ均衡」の概念提示と解説を経て、いよいよゲーム理論の内実に入っていき、第3章では「複数均衡の問題」としてナッシュ均衡が2つ以上ある場合を想定し、第4章では「非存在の問題」としてナッシュ均衡が見つからない状況にてのより適切な意思決定を確率論から考える。そうして第5章にて「完全情報ゲームと後ろ向き帰納法」として複数の意思決定が同時になされない時間差があり、互いに相手方の意思決定に時間のズレが生じる状況を考え、第6章の最終章では「不完全情報ゲームと完全ベイジアン均衡、そして前向き帰納法」として、今度は時間のズレではなくて空間的に相手の意思決定が非公開で完全観察できない、情報欠落のいわゆる「不完全情報ゲーム」下での意思決定の戦略問題を考えるという構成になっている。

岩波新書「ゲーム理論入門の入門」での著者によれば、「ゲーム理論とは、ある種の意思決定を人間が行った結果何が起きるかを予測する理論」であり、「自分は相手の出方を予想して意思決定するし、相手も自分の出方を予想して意思決定する」ような戦略的状況のことを「ゲーム」と称するのであるが、次に何が起きるか、相手の出方に応じた自身の意思決定を適切に予測するのが「ゲーム理論の役目」ということになる。この相手の出方をどう読むかのゲーム理論は、相手と直接に対決したり出目の予測をなす、じゃんけんやルーレット・ゲームのみならず、日常的なビジネス戦略の決定にも使えるという。何となれば、ゲームたる「戦略的状況」とは「自分の利得が自分の行動の他、他者の行動にも依存する状況」とも定義され、戦略的状況は相手の利得と行動を勘案して互いにさらなる利得を取り合う経済学のほぼ全ての状況に当てはまるからだ。ゆえに「ゲーム理論はビジネスの戦略決定にも必須の基礎知識」となるわけである。

岩波新書「ゲーム理論入門の入門」の肝(きも)は、第2章で解説される「ナッシュ均衡」(一般的には「他のプレーヤーの戦略を所与とした場合、どのプレーヤーも自分の戦略を変更することによってより高い利得を得ることができない戦略の組み合わせ」と定義される。また本書での解説によれば「戦略的状況での行動=相手が何をするかに対するベストな反応」のこと)であり、このナッシュ均衡の概念を理解できれば、「ゲーム理論入門」の本新書の理解は確実に前に進む。逆にナッシュ均衡についての理解があやふやだと、本新書の理解はかなり厳しいといった所か。その上で本書にある例題解説を読み、あらゆる組み合わせの場合の数の利得表や樹形図を随時、自分でも実際に書いて確認しながらやると本書記述のゲーム理論の内容を納得し理解できる。確かに極力、難解な数式を使わず利得表と樹形図による説明で乗り切る所が、この本は「入門の入門」といった感じがする。

岩波新書「ゲーム理論入門の入門」の著者は本書を執筆時には30代で、書籍を出す研究者としては割合に若く、その若さゆえか、ナッシュ均衡での「囚人のジレンマ」の定番解説にて、アニメ「ルパン三世」のルパンと次元と銭形警部を登場させたり、その他のゲーム理論に関する説明でもアイドルグループ「AKB48」のじゃんけん大会での篠田麻里子とか、芸能人の岡田准一と宮﨑あおいのカップルの告白などの例を交え解説している。私は読んでいて正直、幼稚で恥ずかしい思いもする(苦笑)。

また本書の柱となるナッシュ均衡についての説明にしても、類書の「ゲーム理論入門」の他の著者による解説よりかは、岩波新書「ゲーム理論入門の入門」のそれはそこまで親切丁寧というわけでもなく、初学者に向けた分かりやすい解説とは(少なくとも私には)思えない。しかし、それは元々著者が若い研究者であり、かつ非常に優秀な方であって、そのため著者にとっては本書に記載のゲーム理論の内容が極めて簡単に思えるので解説もどこか素っ気なく、結果として不親切なものになってしまっていると思われる。このことは、むしろ岩波新書「ゲーム理論入門の入門」の著者・鎌田雄一郎の優秀さを示すものであり、私は本書の読後にそれとなく著者に感心の思いを寄せていた。