アメジローの岩波新書の書評(集成)

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岩波新書の書評(272)坪田耕三「算数的思考法」

岩波新書の赤、坪田耕三「算数的思考法」(2014年)は、小学算数の良質問題演習を通して、読者の大人にも物事の考え方の基本や発想法を暗に教授するような新書だ。読み味としては丸善出版の古典の名作、ポリア「いかにして問題を解くか」(1975年)に似ている。

「じつは深い算数の世界。そこには、日々の生活や仕事にも活かせる、ものの見方・考え方の極意があふれている。複雑な問題を解きほぐす自由な発想力。アイデアを実現する豊かな創造力。『なぜ?』から生まれる知恵の泉へ、算数教育の第一人者が案内する。『数学は苦手だったけど、算数は好きだった』。そんな人に読んでほしい本」(表紙カバー裏解説)

著者は「算数は考えの泉」という。「算数を学びながら頭と体に染みこんでいったことは、いつまでも自分の中に残ります。それは発見的なものの見方・考え方、そして創造的な心です。本書では、その2つをあわせて『算数的思考法』と呼ぶことにします。問題を解く楽しさだけでなく、考えるということの素晴らしさを伝えていきたいと思っています」と、まえがきにある。著者によれば、本書タイトルである「算数的思考法」とは次のように公式化できる。

「算数的思考法=発見的なものの見方・考え方+創造的な心」

より具体的には、本書にて算数問題の演習を通しての「きまりを見つける」「自分で公式をつくる」「方法をあみだす」「見直しの効用」「トコトンやってみる」「全部捨てて考え直す」「『もしも』から広がる」「ないをあると考える」の各種方策となる。

本書にて提示される、これらの考え方の基本をうまく運用して算数の問題が解ける「成功体験」の積み重ねは勉強に励む小学生にとって非常に大切で、後々の「人生の宝」になるに相違ない。同様に、本新書を読む大人にとっても算数以外の実生活や人生に敷衍(ふえん)して物事の見方・考え方に活用できはしないかという所だ。こうしたことはポリア「いかにして問題をとくか」の類書を読むにつけ、昔から私は考えることではある。

例えば数学の「証明」においての「場合分け」の導入(物事を一度に短絡的に雑に考えずに、場合分けして各パターンごとに多方面から精密に考える)、「軌跡」や「数列」での「規則性」の発見(既存の事例から物事の規則性を発見し、その上で事後を予測する)、「集合」にてベン図を介しての「補集合」や「交わり(共通部分)」や「結び(和集合)」の把握(物事の関係性を図式化して一見で即座に理解する)、「確率」での「組み合わせ」の活用(各人同士が等しく総当たりになるよう配慮して効率的に物事を手配する)など。

昔よりの私の経験からしても昨今の周囲の人達を見ていても、数学(算数)が出来ないことは大袈裟に言って、その人の人生にとって相当の痛手(マイナス)である。だいたい中学受験にて算数の出来ない子どもは、ほとんどの中学に合格しない。高校受験でも数学の出来ない生徒は進学校の普通科や特進科に通る見込みはない。数学が苦手で出来ない生徒の受け皿として、非進学校があると言っても言いすぎではないくらいだ。大学受験でも数学が出来ない受験生は理系・文系を問わず、大した進学実績は見込めない。理系はもちろん、文系でも数学は要る。東大や京大の難関大学では文系進学希望者にも文系数学を二次試験で必須に課すほどである。

これらは人の物事の考えの基本や学問の根底に、どんな専攻の学科であろうとも数学の思考が必須であることを指し示している。「数学を勉強しないのは最初から人生を捨てている」と言っても過言ではない。ゆえに特に子どもや若い学生、それから学校を卒業した社会人の大人も数学(算数)を勉強する(勉強し直す)最良に越したことはない。