アメジローの岩波新書の書評(集成)

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岩波新書の書評(206)石河利寛「スポーツと健康」

人間の健康を保ち寿命を延ばす鍵は、いかに自身の身体を炎症させないかにある。人は身体を炎症させなければさせない分だけ、老化を防ぎ健康を保って長寿でいられる。

「炎症」とは、生体の恒常性を正常に維持する防御機構の一つである。炎症は組織損傷などの異常が生体に生じた際、当該組織と生体全体の相互応答により生じる。

現代人の死因の上位にあるがんは、身体各部位の炎症に由来する。身体のある器官が長期に渡り慢性的な炎症を起こしたり、もしくは強度な刺激による組織破壊で頻繁に細胞分裂が促進されると、その部位は炎症して、やがてはがんになりやすくなる。よく喉頭がんや食道がんに罹患して亡くなる人がいるが、あれは喫煙・飲酒・無理な発声の長期習慣がその人にあって、そのため喉頭や食道が常に炎症状態にあるために細胞の一部が後々、がん化すると考えられる。だから、がんを予防し健康長寿を保つためには、とにかく常日頃から身体の無駄な炎症を出来るだけ防止することに努めればよいわけである。

炎症の原因は長期の喫煙・飲酒習慣や器官の使いすぎの他にも、過度の強度と長時間の有酸素の運動(強い酸化)や直接に太陽光に長時間さらされる日焼け、精神的なストレスが考えられる。よって、これらの防止に日々努めればよい。特に「スポーツと健康」の関係は重要で、スポーツは身体の炎症防止の健康長寿の観点から十分に考えて日々、実践される必要がある。

よくテレビの駅伝中継で全力疾走で次走者にタスキを渡して、途端に中継所で倒れ込むランナーを見るけれど、あの光景を毎度視聴して私は恐怖する。あのような無理な激しい身体の使い方は身体を炎症させ酸化させる。あれは「スポーツが健康によくないこと」の典型で、スポーツを通しての自殺行為に等しい。あのような無理な身体の使い方は確実に、その人の寿命を縮める。

またサッカーなど90分間走り続ける過度な有酸素運動、かつ所々で瞬発的な力の発揮が要請されるスポーツも身体によくない。さらにサッカーは屋外で太陽光に長時間さらされるため、紫外線を浴び続けて過度に炎症する。紫外線を長く浴び続けるのも老化の原因となり健康によくない。私の印象からして、サッカーをやっている人は同年代の一般の人よりも身体の炎症や酸化が激しく老(ふ)けて不健康そうに見える。

しかし、他方からいって「スポーツと健康」の関係にて、スポーツが身体の炎症防止の健康長寿の観点から有用に働くことも確かだ。身体を炎症させない適切な運動は、逆に健康によい。スポーツを通じて血流や代謝をよくすることは抗炎症作用になるし、また適度な運動による精神的なストレス発散も、身体の炎症つまりは老化防止に大きく寄与する。そうした炎症防止に寄与する運動によるストレス発散効果のためにも、異常に勝敗や記録にこだわったり、チームプレーで他者とのスムーズな連係動作を厳しく求められることから絶えず緊張(ストレス)を強いられるなど、俗にいう「やっていて楽しくないスポーツ」は健康のためによくない。

日常生活にて、明らかに姿勢や動作がよくない(真っ直ぐ止まって立っていられない、座った時に足を組んで身体をねじる、身体が正面ではなくいつも半身になる、一つ一つの動作が小さくコセコセしているなど)人が時にいるが、あれはもともと自身の身体を正しい姿勢に固定したり、ゆったりと余裕を持って大きな動作で疲れないように合理的に身体を動かす体力(筋力そのものや身体各部の正しい機動習慣)がないからだと考えられる。常に姿勢に悪かったり疲労しやすい身体動作を繰り返していると身体は炎症し老化するのだから、そういった問題解決の点からも適切な運動は健康と寿命のために必要だと思える。

以上のことを踏まえると「スポーツと健康」について、身体を無駄に炎症させて老化を促すような非合理なスポーツは慎むべきで、逆に日頃から炎症の老化防止や姿勢・動作の合理化のために適切な運動を継続して行うべきである。その際の「健康長寿のための好ましいスポーツ」の条件とは、

(1)長時間の有酸素運動や瞬発的な力を出す激しい運動ではない。(2)屋外で太陽光に長時間さらされ続ける運動ではない。(3)勝敗や記録や高度な動作を求められて絶えず緊張状態(ストレス)を強いられる運動ではない。(4)無理な身体の使い方(ねじれや半身など)を求められる運動ではない(人間の正しい姿勢や合理的な動作にかなった動きが要請される運動である)。

少なくとも以上の条件を満たす種目のスポーツを選択して続ければ、健康と長寿によいと思われる。

岩波新書の黄、石河利寛「スポーツと健康」(1978年)は、健康の観点からどのようにスポーツに向き合い取り組めばよいか、科学的データを用いて慎重に考察されている。本書の内容は、これまで書いてきた「スポーツと健康」についての私の考えと、おおよそ一致している。

最後に、本新書の目次を載せておく。

「第一章・スポーツマンは長生きか、第二章・寝て暮したらどうなるか、第三章・運動と心臓疾患の予防、第四章・運動と心臓、第五章・運動と血圧、第六章・運動と代謝、糖尿病、第七章・体力は遺伝かトレーニングか、第八章・運動中の急死とメディカルチェック、第九章・運動の処方、第十章・運動を生活に取り入れる」