アメジローの岩波新書の書評(集成)

岩波新書の書評が中心の教養読書ブログです。

政治・法律

岩波新書の書評(510)東大作「ウクライナ戦争をどう終わらせるか」

岩波新書の赤、東大作「ウクライナ戦争をどう終わらせるか」(2023年)のタイトルとなっている「ウクライナ戦争」とは、2022年2月からのロシアによるウクライナ侵攻を指す。 2022年2月24日、ロシア大統領のウラジーミル・プーチンはウクライナへの「特別軍事…

岩波新書の書評(504)渡辺洋三「法とは何か 新版」

一般に「××とは何か」というタイトルの書籍は、「××とは××である」とする著者による主張の定義文を押さえれば一応は読み切れたといえる。岩波新書の赤、渡辺洋三「法とは何か・新版」(1998年)においても、「法とは××である」の著者の主張文をまず押さえる…

岩波新書の書評(498)豊下楢彦 古関彰一「集団的自衛権と安全保障」

「集団的自衛権」とは、「ある国家が武力攻撃を受けた場合、直接に攻撃を受けていない第三国が共同で防衛対処する国際法上の国家の権利」のことをいう。直接に攻撃を受けている他国を第三国が援助し、これと共同で武力攻撃にて対処する、つまりは攻撃を受け…

岩波新書の書評(456)坂本義和「軍縮の政治学」

著作や対談など、「平和学」を志向する国際政治学者の坂本義和(1927─2014年)の文章や発言を読むたび昔から私には、「この人は反戦平和を主張する自らの政治的立場や国際政治学の言説に対し、右派保守論壇や軍備増強論の国家主義者たちから『現実離れをした…

岩波新書の書評(450)川島武宜「日本人の法意識」

1945年8月15日の日本の敗戦に伴う大日本帝国の崩壊に際して、これまでの狂信的な天皇制ファシズムの軍国主義を批判し、さらには明治維新にまでさかのぼり近代日本全体を反省的に総括して、その上で今後の日本社会の民主化を新たに進めようとした戦後日本の知…

岩波新書の書評(440)菅直人「大臣」

現職の国会議員が、自身が取り組む目下の政策や自己の政治観や国家観を人々に広く知らしめるために、党代表の重職に就いたり、総理大臣に就任して内閣を組閣する際の節目に自著を上梓することはよくある。その事例として、古くは小沢一郎「日本改造計画」(1…

岩波新書の書評(435)廣瀬健二「少年法入門」

私は法学部出身ではないし、法律をそこまで専門的に学んだことはないので、日本における主要な6つの法律である「六法」のうちの刑法(犯罪に対する刑罰を定めた法律)と刑事訴訟法(刑事手続について定めた法律)に関し、それほど詳しく知っているわけでは…

岩波新書の書評(384)佐々木毅「政治の精神」

岩波新書の赤、佐々木毅「政治の精神」(2009年)を手にしてまず思うのは、著者の佐々木毅が政治学者の福田歓一の弟子であり、また佐々木は東京大学総長(第27代)を務めた人でもあるから、2009年出版の本新書にて当時の日本の政治状況に絡(から)めて、ど…

岩波新書の書評(371)久保文明 金成隆一「アメリカ大統領選」

岩波新書の赤、久保文明・金成隆一「アメリカ大統領選」(2020年)は、アメリカ合衆国大統領を選出(もしくは再任)するための4年に1度の選挙であるアメリカ大統領選挙について述べた書籍である。本書の出版は2020年10月である。これは来(きた)る2020年1…

岩波新書の書評(349)杉田弘毅「アメリカの制裁外交」

現代の国際政治における各国の行動指針は、倫理的な人道上の正義ではなくて、政策遂行に伴う、いわゆる「リスクとコスト」であるから、例えば北朝鮮という核不拡散の国際規約に反する核開発疑惑があり、テロ国家やそれに準ずる組織を物資提供の面で秘密裏に…

岩波新書の書評(341)サマヴィル「人類危機の十三日間」

岩波新書の青、サマヴィル「人類危機の十三日間」(1975年)は、「キューバ危機」を題材にした戯曲である。ここでまず「キューバ危機」の概要を確認しておこう。 「キューバ危機とは、1962年10月から11月にかけてソビエト連邦が反米親ソであった社会主義国・…

岩波新書の書評(338)ストレイヤー「近代国家の起源」

例えば「反戦平和」とよく言われるが、近代における戦争というものは、いつの間にかどこかで勝手に戦禍の火が自然に着いて、知らず知らずのうちに戦闘が拡大しエスカレートしていくようなものでは決してない。古代や中世の戦争とは異なり、近代における戦争…

岩波新書の書評(326)山口二郎「民主主義は終わるのか」

以前は北海道大学教授で民主党の政策顧問を務め、岩波新書の赤「民主主義は終わるのか」(2019年)を執筆時には法政大学教授である政治学者の山口二郎は、昔から一貫して長期保守政権堅持の自民党を批判し続ける立ち位置であり、強烈な「反自民」の野党性が…

岩波新書の書評(287)福田歓一「近代民主主義とその展望」

勉強をやりたくない10代の若い学生や、学歴に頼らず現場主義で自力で成り上がってきた社会人の大人が、「なぜ古文の文法や数学のサイン・コサインの三角関数を学校で勉強しなければならないのか!?それらを学んでも、社会に出てから何の役にも立たないではな…

岩波新書の書評(282)藤原帰一「デモクラシーの帝国」

昨今の2000年代以降の日本では、日本国の自国賞賛と近隣東アジア諸国への強硬ヘイト路線でひたすら押しまくる保守、国家主義、歴史修正主義の右派論壇の方が一般ウケがよく、新聞でも書籍でもネット配信記事でもそのほうが確実に売れるし、よく読まれる傾向…

岩波新書の書評(273)原彬久「吉田茂」

岩波新書の赤、原彬久(はら・よしひさ)「吉田茂」(2005年)は、同赤版の「岸信介」(1995年)に続く著者による戦後日本の政治家評伝である。最初に吉田茂の概要を確認しておくと、「吉田茂(1878─1967年)。東京生まれ。武内家から吉田家へ入る。戦前は外…

岩波新書の書評(267)原彬久「岸信介」

岩波新書の赤、原彬久(はら・よしひさ)「岸信介」(1995年)は著者の原によれば、「戦後50年」の節目に当たり日本政治の本質を探り、今後の私たち日本人の座標軸を定めるために政治家・岸信介(1896─1987年)を論ずる主旨の新書であるが、本書出版時の1995…

岩波新書の書評(244)三浦俊章「ブッシュのアメリカ」

岩波新書の赤、三浦俊章「ブッシュのアメリカ」(2003年)は、まず何よりもタイトルが傑作である。アメリカは独裁の絶対主義国家ではなくて民主主義の国民国家であるはずだから、どう間違えても「ブッシュのアメリカ」の大統領個人(とその側近たち)の私的…

岩波新書の書評(243)福田歓一「近代の政治思想」

政治学者・福田歓一のヨーロッパ史の解説記述のあり方は、同時代の専門の西洋史専攻の歴史学者のそれと比べて違う気がする。「福田歓一と同時代の専門の西洋史専攻の歴史学者」といえば、例えば堀米庸三や増田四郎らだ。 福田歓一は政治学者であり、そもそも…

岩波新書の書評(169)杉田敦「政治的思考」

長い間、岩波新書を読んでいると、一冊上梓しただけでそれきりで終わる人もいれば、後々まで何冊も続けて岩波新書から連続で著作を出す人もいることが分かる。おそらく、これは新書の売り上げや公的書評の多さや各種メディアに推薦図書として取り上げられた…

岩波新書の書評(167)末川博「法律」

民法学者の末川博といえば、元は京都大学にて教壇に立っていたが、戦時に京大の滝川幸辰(ゆきとき)「刑法読本」に発禁処分が出て思想弾圧事件となり、滝川の休職処分を受けて同僚教官らが抗議の意を示し京大法学部を去った、いわゆる「滝川事件」(1933年…

岩波新書の書評(156)宮沢俊義「憲法講話」

昔から岩波新書を愛読していて、「岩波新書は憲法に関する新書を多く出しすぎる」の率直な思いがする。事実、岩波新書にての憲法関連書籍は実に多くあり内容が重複して私は以前に読んだものでも忘れてしまったり、他の書籍と内容を混同し記憶してしまってい…

岩波新書の書評(154)坂井豊貴「多数決を疑う」

ある書籍が世評に受けて広く読まれるのは、当然その書物の内容が優れているからであるが、その他にも著作にて取り上げられている話題(トピック)が人々の関心や時代の気分に見事に合致し、爆発的に読まれることはある。 岩波新書の赤、坂井豊貴「多数決を疑…

岩波新書の書評(107)牧英正「道頓堀裁判」

以前に「道頓堀裁判」というのがあった。1965年に大阪地方裁判所に民事で訴えが起こされ、1976年に判決が出された。提訴から結審まで審理に11年かかった。判決後、控訴はなく地裁の一審判決にて裁判は終決している。「道頓堀裁判」の概要はこうだ。 道頓堀は…

岩波新書の書評(101)樋口陽一「憲法と国家」

憲法学者の樋口陽一の岩波書店の書籍は、岩波新書の「憲法と国家」(1999年)を始めとして多い。岩波書店のみならず、他社書籍でも樋口陽一の著作は実に多い。著者一人の単著だけでなく共著も多くある。「この人は非常に本を書き慣れている」の好印象だ。私…

岩波新書の書評(60)日高六郎「1960年5月19日」

以前に東京大学に政治学者の丸山眞男という人がいて、彼の志向する政治学を「丸山政治学」、その丸山門下の弟子の人達を「丸山学派」と一般に呼ぶ。そして藤田省三は丸山眞男の弟子で、「丸山学派」の中で最も左寄りで頭がキレる普遍主義者であり思想史家で…

岩波新書の書評(43)新崎盛暉「日本にとって沖縄とは何か」

岩波新書での新崎盛暉(あらさき・もりてる)の沖縄史に関する著作といえば、共著も含めて「沖縄問題二十年」(1965年)と「沖縄・70年前後」(1970年)と「沖縄戦後史」(1976年)と「沖縄現代史」(1996年)となる。この辺りの事情を新崎本人に語ってもら…

岩波新書の書評(18)オルドリッジ「核先制攻撃症候群」

岩波新書の黄、オルドリッジ「核先制攻撃症候群」(1978年)は日本語訳の初版発行が1978年で、米ソ東西冷戦下での両大国の核軍備競争、その軍拡競争を表向きで理論的に強力に支える戦略的核武装の核抑止の軍事政策に対し、副題にて「ミサイル設計技師の告発…