アメジローの岩波新書の書評(集成)

岩波新書の書評が中心の教養読書ブログです。

2021-01-01から1年間の記事一覧

このブログ全体のための最初のノート

今回から新しく始める「アメジローの岩波新書の書評」。本ブログ「岩波新書の書評」は全7カテゴリーよりなります。「政治・法律」「経済・社会」「哲学・思想・心理」「世界史・日本史」「文学・芸術」「記録・随筆」「理・医・科学」です。 お探しの記事やお…

真面目で堅実な人が一番えらい

いちばんはじめの書評をめぐるコラム

私は若い頃から「図書新聞」をよく購読し、昔から書評やブックレビューの読みものを楽しんで読んでいた。私は自分で書評ブログを始める際、これまで他人の書評を日常的に読み、かつ研究した結果、自身に課したことがいくつかあった。 (1)自分の身辺雑記や個…

岩波新書の書評(535)山田圭一「フェイクニュースを哲学する」(その2)

(前回からの続き)ここで「陰謀論」について、改めて確認しておこう。 「陰謀論─何らかの有名な出来事・状況に関する説明で、『邪悪で強力な集団組織による陰謀が関与している』と断定したり信じたりするもの。陰謀論は、単純に秘密の計画を指す『陰謀』と…

岩波新書の書評(534)山田圭一「フェイクニュースを哲学する」(その1)

岩波新書の赤、山田圭一「フェイクニュースを哲学する」(2024年)を読むと、いわゆる「陰謀論」というものは「フェイクニュース」の範疇(はんちゅう)にあることがわかる。 つまりは、フェイクニュースという、そもそもの大きな問題カテゴリがあって、その…

岩波新書の書評(533)大島堅一「原発のコスト」

原子力発電所を日々稼働させ、かつ国内での新規原発の増設を今後も進めるべきとする原発推進派と、廃炉を進め原発を廃止し続けて将来的には発電の原発依存から完全脱却すべきとする脱原発派との間で昔からある議論に、経済的合理性の観点からの、いわゆる「…

岩波新書の書評(532)宇沢弘文「経済学の考え方」

思えば経済学者の宇沢弘文(1928─2014年)は、元は理学部に在籍し数学を専攻していたが、河上肇「貧乏物語」(1917年)を読み感銘を受けて経済学に転じた、河上肇の社会主義思想に傾倒した人だった。後に宇沢はアメリカに留学し、効率重視の安定成長を第一義…

岩波新書の書評(531)加藤節「南原繁」

日本の政治学者で、敗戦後の1945年よりの日本の民主化、学問の自由と大学の自治を担った戦後初の東京大学総長(第15代)の南原繁である。そもそも南原繁は今日、多くの人々に知られているのか!?近年の政治学者・丸山眞男ブーム下にあって、東大法学部教授の…

岩波新書の書評(530)中村とうよう「ポピュラー音楽の世紀」

私が中高生の頃の1980年代から90年代は、まだ今のようにインターネット環境が不在でダウンロードやサブスクはなく、音楽を聴くのに街のレコード店に頻繁に行っては新譜や旧譜のレコード・CDをその都度購入していたし、新作情報やアーティストのインタビュー…

岩波新書の書評(529)西山太吉「沖縄密約」

岩波新書の赤、西山太吉「沖縄密約」(2007年)の表紙カバー裏解説には次のようにある。 「日米の思惑が交錯した沖縄返還には様々な密約が存在した事が、近年相次いで公開された米公文書や交渉当事者の証言で明らかになりつつある。核持ち込み、基地自由使用…

岩波新書の書評(528)三上智恵「証言 沖縄スパイ戦史」

(今回は、集英社新書の三上智恵「証言・沖縄スパイ戦史」についての書評を「岩波新書の書評」ブログですが、例外的に載せます。念のため、三上「証言・沖縄スパイ戦史」は、岩波新書ではありません。) 先日、三上智恵「証言・沖縄スパイ戦史」(2020年)を…

岩波新書の書評(527)富永茂樹「トクヴィル」

岩波新書の赤、富永茂樹「トクヴィル」(2010年)には私が尊敬する好きな人物が二人いる。一人は本書のタイトルになっているトクヴィルであり、もう一人は本書の著者である富永茂樹である。 まずトクヴィルについて。アレクシス・ド・トクヴィル(1805─59年…

岩波新書の書評(526)西林克彦「わかったつもり」

(今回は、光文社新書の西林克彦「わかったつもり・読解力がつかない本当の原因」についての書評を「岩波新書の書評」ブログですが、例外的に載せます。念のため、西林克彦「わかったつもり」は光文社新書で、岩波新書ではありません。) 私は今ではあまり人…

岩波新書の書評(525)瀬戸賢一「日本語のレトリック」

岩波ジュニア新書の瀬戸賢一「日本語のレトリック」(2002年)は副題が「文章表現の技法」であり、本書は様々な文章表現技法を30の型にまとめたものである。 「『人生は旅だ』『筆をとる』『負けるが勝ち』『一日千秋の思い』…。ちょっとした言い回しやたく…

岩波新書の書評(524)富岡儀八「塩の道を探る」

岩波新書の黄、富岡儀八「塩の道を探る」(1983年)のタイトルにある「塩の道」の概要はこうだ。 「塩の道とは、塩を内陸に運ぶのに使われた道のこと。また反対に内陸からは、山の幸(山の食料や木材や鉱物)が運ばれた道でもある。製塩が化学製法に代わり専…

岩波新書の書評(523)北山茂夫「藤原道長」

近年、放映のNHK大河ドラマに「光る君へ」(2024年)があった。本作は、平安時代の摂関政治期が舞台であり、紫式部が主役、藤原道長が相手役の準主役となっている。紫式部、藤原道長ともにこの時代の代表的人物として有名だが、実のところその全貌にはいまだ…

岩波新書の書評(522)岡本隆司「李鴻章」

近年、岩波新書の新赤版にて、中国近代史専攻の岡本隆司による「評伝三部作」とでもいうべき近代中国の人物に関する新書が出ている。「李鴻章・東アジアの近代」(2011年)と「袁世凱・現代中国の出発」(2015年)と「曾国藩・『英雄』と中国史」(2022年)…

岩波新書の書評(521)中野敏男「ヴェーバー入門」

(今回は、ちくま新書の中野敏男「ヴェーバー入門」についての書評を「岩波新書の書評」ブログですが、例外的に載せます。念のため、中野敏男「ヴェーバー入門」は岩波新書ではありません。) 2020年は社会科学者であるマックス・ヴェーバー(1864─1920年)…

岩波新書の書評(520)今野元「マックス・ヴェーバー」

2020年は社会科学者であるマックス・ヴェーバー(1864─1920年)の没後百年の節目に当たり、ヴェーバー関連の書籍が数多く刊行された。今回の「岩波新書の書評」で取り上げる新赤版の今野元「マックス・ヴェーバー」(2020年)も、そのうちの一冊である。 「…

岩波新書の書評(519)川名壮志「記者がひもとく『少年』事件史」

岩波新書の赤、川名壮志「記者がひもとく『少年』事件史」(2022年)の表紙カバー裏解説文は次のようになっている。 「白昼テロ犯・山口二矢、永山則夫、サカキバラ、…。殺人犯が少年だとわかるたびに、報道と世間は、実名か匿名か、社会の責任か個人の責任…

岩波新書の書評(518)「シリーズ中国近現代史」全6巻

近年の岩波新書は中国史関連の書籍が充実している。19世紀の清朝から始まる現代までの中国史概説である「シリーズ中国近現代史」全6巻(2010─17年)を、それとなく手に取り、全巻読了して弾切れになった所で、今度は、黄河文明の古代から清朝の19世紀までを…

岩波新書の書評(517)田中彰「小国主義」(その3 石橋湛山)

前々回、岩波新書の赤、田中彰「小国主義」(1999年)の書評を書いた。本新書の中で「近代日本の小国主義の系譜」として中江兆民と石橋湛山が紹介されていたので、前回と今回で中江と石橋について改めて個別に書いてみたい。 岩波文庫に「中江兆民評論集」(…

岩波新書の書評(516)田中彰「小国主義」(その2 中江兆民)

前回、岩波新書の赤、田中彰「小国主義」(1999年)の書評を書いた。本新書の中で「近代日本の小国主義の系譜」として中江兆民と石橋湛山が紹介されていたので、今回と次回で中江と石橋について、特に「小国主義」という観点にとらわれることなく自由に書い…

岩波新書の書評(515)田中彰「小国主義」(その1)

岩波新書の赤、田中彰「小国主義」(1999年)は、タイトルの「小国主義」の反対である「大国主義」を「国際関係において、大国が自国の強大な力を背景に小国を圧迫する態度」「経済力・軍事力にすぐれた国がその力を背景に小国に臨む高圧的な態度」という辞…

岩波新書の書評(514)川喜田二郎「発想法」

(今回は、中公新書の川喜田二郎「発想法」についての書評を「岩波新書の書評」ブログですが、例外的に載せます。念のため、川喜田二郎「発想法」は岩波新書ではありません。) 川喜田二郎「発想法」(1967年)は、昔からよく読まれている書籍で有名である。…

岩波新書の書評(513)ドイッチャー「ロシア革命五十年」

前回に引き続き今回も「ロシア革命」についての話である。 ヨーロッパ近代史を本質的に知るには、それぞれに各地域で起こった市民革命を中心に学ぶのが有効だ。西洋近代において、特に注目すべき革命はイギリス革命(ピューリタン革命+名誉革命)、アメリカ…

岩波新書の書評(512)クリストファー・ヒル「レーニンとロシヤ革命」

「季節と読書」の関係で言うと毎年、夏の暑い盛りの八月になると、太平洋戦争ら先の日本の戦争についての書籍をなぜか読みたくなる。これは私が紛(まぎ)れもない日本人であるからに相違ない。同様に冬の寒い季節になると、今度はロシア革命に関する書籍を…

岩波新書の書評(511)出口治明「生命保険とのつき合い方」

岩波新書の赤「生命保険とのつき合い方」(2015年)の著者である出口治明については、 「出口治明(1948年─)は日本の実業家。訪問商談の保険外交員をなくした直販のネット通販型の保険会社であるライフネット生命保険株式会社の創業者。一時は立命館アジア…

岩波新書の書評(510)東大作「ウクライナ戦争をどう終わらせるか」

岩波新書の赤、東大作「ウクライナ戦争をどう終わらせるか」(2023年)のタイトルとなっている「ウクライナ戦争」とは、2022年2月からのロシアによるウクライナ侵攻を指す。 2022年2月24日、ロシア大統領のウラジーミル・プーチンはウクライナへの「特別軍事…

岩波新書の書評(509)米原謙「徳富蘇峰」

(「岩波新書の書評」ですが、中公新書の米原謙「徳富蘇峰・日本ナショナリズムの軌跡」に関連して、今回は徳富蘇峰について書きます。念のため、米原謙「徳富蘇峰・日本ナショナリズムの軌跡」は岩波新書ではありません。) 徳富蘇峰(1863─1957年)は明治…