アメジローの岩波新書の書評(集成)

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岩波新書の書評(525)瀬戸賢一「日本語のレトリック」

岩波ジュニア新書の瀬戸賢一「日本語のレトリック」(2002年)は副題が「文章表現の技法」であり、本書は様々な文章表現技法を30の型にまとめたものである。

「『人生は旅だ』『筆をとる』『負けるが勝ち』『一日千秋の思い』…。ちょっとした言い回しやたくみな文章表現で、読む者に強い印象を与えるレトリック。そのなかから隠喩や換喩、パロディーなど30を取り上げる。清少納言、夏目漱石から井上ひさし、宮部みゆきまで、さまざまな小説や随筆、詩を味わいながら、日本語の豊かな文章表現をまなぶ」(裏表紙解説)

著者によれば、「レトリックとは、あらゆる話題に対して魅力的なことばで人を説得する技術体系である」(7ページ)と定義される。

良い文章とは、読み手に対し説得力があることが必須の条件であるから、何よりも記述内容が論理的に破綻しておらず筋道が通っているとか、読み手に共感と好意を抱かせるものであるなど、まず文章の中身の問題がある。その上で、次に文章表現の外形を整えるレトリック(修辞)の問題があるのだ。レトリックとは、文の内容をよりよく説得力を持って効果的に読み手に伝えるための、あくまでも外面的な技術の問題である。そして文章内容の内面の心と、文章修辞の外面のレトリックの技術との双方が上手くかみ合い共に稼働することが望ましい。

岩波ジュニア新書、瀬戸賢一「日本語のレトリック」はそれらの内の、後者の文章修辞の外面レトリックの技術をまとめ、分かりやすく解説している。本書では文章表現技法を30の型にして取り上げている。例えば以下のようなものがある。

☆隠喩(類似性に基づく比喩である。「人生」を「旅」に喩えるように、典型的には抽象的な対象を具体的なものに見立てて表現する。例─「人生は旅だ」「彼女は氷の塊だ」)☆共感覚法(触覚、味覚、嗅覚、視覚、聴覚の五感の間で表現をやりとりする表現法。表現を貸す側と借りる側との間で、一定の組み合わせがある。例─「深い味」「大きな音」「暖かい色」)☆くびき法(一本のくびきを二頭の牛が引くように、ひとつの表現を二つの意味で使う表現法。多義語の異なった意義を利用する。例─「バッターも痛いがピッチャーも痛かった」)☆撞着法(正反対の意味を組み合わせて、なおかつ矛盾に陥らずに意味をなす表現法。「反対物の一致」を体現する。例─「公然の秘密」「暗黒の輝き」「無知の知」)☆対句法(同じ構文形式のなかで意味的なコントラストを際立たせる表現法。対象的な意味が互いを照らしだす。例─「春は曙。冬はつとめて」)

本論に引用紹介されてあるように、これらのレトリックは昔からある定番のもので、古典の名作や落語・漫談の話芸にて従来使われてきたものである。一読して、私が既知で無意識に日常会話や普段よりの記述にてすでに使っているものもあるし、また今回本書を読み初めて知り感心して、いつか使ってみたいと思える文章表現技法(レトリック)も多々あった。

岩波ジュニア新書の瀬戸賢一「日本語のレトリック」は、10代の中高生向け読み物のジュヴナイルであるから、本書は中高生がこれらレトリックを作文・小論文に使って、文章上達を促す程度のものである。ゆえに大人の読者が本気を出して読んで「内容が薄い」などと酷評してはいけない。それはさすがに大人気ない(苦笑)。しかし、大人の読者が読んでもためになるのは確かで、普段よりの書類作成やレポート報告にこれら「日本語のレトリック」は十分に使えるし、また詩作などの特殊な文章創作の際にも本書は有用である。

巻末に「レトリック三0早見表」がある。本論で紹介されている30の型の文章表現技法(「日本語のレトリック」)が、表まとめの一目で即に確認できて便利である。