アメジローの岩波新書の書評(集成)

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岩波新書の書評(396)岡田正彦「人はなぜ太るのか」

岩波新書の赤、岡田正彦「人はなぜ太るのか・肥満を科学する」(2006年)のタイトルに引き付けて「人はなぜ太るのか」と聞かれれば、私の経験からして「それは必要以上に食べ過ぎだから」である。代謝異常などの病気の例外を除いて、健康な成人のほとんどの人の肥満の原因は食べ過ぎである。例えば運動不足であるだけで、人はそんなに太ったりはしない。これも私の経験からして日々運動してカロリー消費に努めたり、筋肉トレーニングをやり筋肉量を増やして代謝促進の太りにくい体質作りなどやっても、実はあまり痩(や)せない。

不健康なまでに太らないよう肥満防止のためには、日頃の食べ過ぎをやめればよい。特に空腹でもないのに毎日三食(朝昼晩)を時間が来れば自動的に定期的に食べてはいけない。時に一日一食や二食の日があってもよい。また間食と夜食は特に良くない。健康のためには間食と夜食の習慣は絶対に絶つべきだ。これだけで高齢者も含む健康な成人であれば、ほとんどの人は肥満にならず痩せる。その際、「毎日しっかり朝昼晩の食事を摂らないとエネルギー不足になり頭と身体が正常に働かない」とか、「少食は栄養不足になって身体を壊す。やがて病気になる」などの世間一般で昔から信じられている思い込みを一度は疑ってみることも必要だ。

「人はなぜ太るのか」「それは人は必要以上に食べ過ぎだから」。だから肥満防止のためには日頃の食べ過ぎをやめればよい。たったそれだけである。ただし、極度の食事制限や絶食は安易にやってはいけない。また偏食ダイエット(特定の食材だけ食べ続ける、炭水化物抜きなど)は絶対にやってはいけない。

岩波新書の岡田正彦「人はなぜ太るのか・肥満を科学する」は、医学博士の著者が科学的見地から肥満について述べたものだ。著者の岡田正彦は長年、病院で予防医学外来を担当し、外来患者のコレステロール、中性脂肪、血糖、血圧などの検査値に予防医学・長寿科学の知見(治験)から向き合ってきたという。本書は全四章よりなる。

まず「第1章・肥満の仕組み」にて、「栄養と食事と遺伝」の3つの要素から、まさにタイトル通り「肥満の仕組みを科学」している。次に「第2章・肥満をはかる」で「そもそも肥満とは何か」の肥満の医学的定義や正しいはかり方を解説する。さらに「第3章・肥満はなぜ健康に悪いか」で、「メタボリックシンドロームとは?」「肥満によっておこる病気(糖尿病、心不全、骨粗鬆症など)」について説明している。その上で最後に「第4章・健康的にやせるには?」で、「運動療法・食事療法・医学療法」の3点から肥満防止ないしは解消のための実践的アドバイスが述べられている。

本新書の肝(きも)は、タイトルに「肥満を科学する」とあるように、医学博士である著者があくまでも医師の科学的見地から人間の肥満をどこまでも学術的に硬派に固く解説する所にある。そのため一般にメディアで流され、時に世間に信じられ流行しているダイエット法に関し科学的視点から強い不信感を持つ著者の厳しい姿勢で本書は貫かれている。「今日、無数に出版されているダイエット本のたぐい」に対する著者の強い不信感、そうしてその代わりに「そのようなたぐいの話とは一線を画し、学術論文と同じくらい新しく、間違いがなく、役に立つ情報を」の本書執筆の際の著者の意図である。例えば以下のように。

「ダイエット本のたぐいが無数に出版されているが、その多くは、単に個人的な経験を綴(つづ)ったものにすぎない。したがってそれらの本で紹介されるダイエット法は、読んだ人にも有効とはかぎらず、それどころか、まったくナンセンスだったり、ときには有害でさえある。本書は、そのようなたぐいの話とは一線を画し、学術論文と同じくらい新しく、間違いがなく、役に立つ情報を、わかりやすくまとめたつもりである。特に読者に間違った知識を与えないよう、全身全霊を打ちこんだ」(「あとがき」)

極度の肥満は健康や長寿に良くないが、逆に痩せすぎも良くない。特に身体の細さ(スリムさ)の容姿の見てくれを気にしすぎるあまり無理で過度なダイエットに励んだり、体重や体脂肪率の数値に一喜一憂してはいけない。現代人は、そうした「肥満へのマイナス・イメージ」が強すぎて、時に不健康に痩せすぎの傾向もある。肥満に関する問題と共に、そういった問題意識も予防医学・長寿科学専門の現場の医師である著者には、一貫して強くあるに違いない。だから、本書にて「健康的にやせるには」や「ちょっぴりやせたい人へのアドバイス」というように、肥満防止のために単に痩せるのではなくて、痩せる際には「健康的に」や「ちょっぴり」の条件が付くのであった。極度の肥満は良くないが、逆に痩せ過ぎも健康や長寿の面から見て良くないのである。岩波新書の赤、岡田正彦「人はなぜ太るのか・肥満を科学する」では肥満への問題意識と同時に、痩せ過ぎの問題や強迫的なダイエットの弊害も著者の筆致から読み取り、深く理解することが必要だ。

「メタボリック症候群の報道にみられるように、肥満の健康への悪影響が大きくとりあげられている。では、肥満は具体的にどんな病気につながるのか。太る仕組みとはどうなっているのか。どこまで太れば『肥満』といえるのか。健康的にやせるには、どうしたらいいのか。最新の疫学調査のデータをもとに、肥満をめぐる疑問を一挙に解決する」(表紙カバー裏解説)