アメジローの岩波新書の書評(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。岩波新書の書評が中心の教養読書ブログです。

岩波新書の書評(312)島秀之助「プロ野球審判の眼」

現役のプロ野球選手や引退後の監督・コーチや評論家、各チームや特定選手に付いている番記者ら、いわゆる「野球人」による野球に関する書籍はだいたい誰の何を読んでも面白い。

現役時代は巨人の内野手であり、引退後にヤクルトと西武の監督をやって優勝させた広岡達朗が私は昔から好きで、広岡の著作を暗記するくらい繰り返し読んでいた。広岡達朗「意識改革のすすめ」(1983年)や「勝者の方程式」(1988年)などだ。あと広岡をモデルにした海老沢泰久「監督」(1979年)の小説もなかなか面白い。広岡達朗の書籍は単なる野球論だけでなく、野球以外の一般企業の組織論や人心掌握術や部下指導理論や自己鍛練法として読んで今でも十分に役立つし通用する。
 
さて岩波新書の黄、島・秀之助「プロ野球審判の眼」(1986年)である。著者の島秀之助は、日本プロ野球(学生野球ではない職業野球)発足の草創期1938年より審判員生活に入り、1980年の退職まで四十余年に渡りプロ野球審判を務めた元セ・リーグ審判部長である。

著者はいう、「野球の審判員は、グラウンドにおける唯一の権威者です。ですから、規則についての十分な知識を身につけているのはもちろん、多くの人たちから信頼される人間でなければなりません」。しかしながら、「(審判というのは)利害相反する人間と人間が争う競技を同じ人間が裁くのであるから、アクシデントが起きたり、思いもかけないトラブルの生じることがあるのは当然」。

「野球試合で最も重要な役割を演じながら、最も賞賛されないのが審判の仕事である。好試合が展開されたとき、ファインプレーをした野手に、快打を放った打者に、また好走塁をした走者に対しては拍手がおくられ賞揚の言葉がおくられるが、難しいプレーを正確に判断して好判定を下した審判員には、ほとんどの場合そんなことはない。審判員は正しい判定を宣告して当り前、もし僅かなミス・ジャッジでもあれば厳しく批判される」「審判員にもファインプレーはあるが、それに対して拍手が送られることはまずない。むしろファインプレーであればあるほど、不利な判定を下された選手からは恨まれる。それに、多くの人は好試合の時に両選手を賞めるが、審判員が誰であったかなどというのは、すぐに忘れてしまうものである」。

なるほど、野球の審判というのは重要であるけれど認められない、なかなか厳しい仕事である。「審判の仕事は、難しい上に割の悪いもの」と著者はいう。選手には攻守交代があって一イニングの半分は(プレーをしない限りは)ベンチで休むことができるが、審判員の場合は試合の始めから終わりまでグラウンドに立ちっぱなしである。審判員にとって眼(視力)は極めて大切であるから、試合の前夜に深酒や麻雀をやると眼がかすんでミス・ジャッジの原因になりかねないので自重しなければならない。休日でも映画を観ると眼が疲れて視力が落ちるから映画鑑賞は避ける。また揺れる列車の中で新聞や雑誌を読むのも、常日頃から眼のために差し控える。まさに「プロ野球審判の眼」は大切である。

だが、「審判の難しさは、この仕事をした人でなければわからない」とする反面、著者は「審判員がいなければゲームはそもそも成立しない」「試合を左右するような重大な局面に責任を持って判定を下す…この一瞬こそ、まさしく『男冥利につきる』思いであったし、また審判員としての生甲斐を感じた」ともいう。プロ野球審判という仕事に対する揺るぎない責任と誇りがあるのであった。

本新書は、冒頭からプロ野球審判の仕事全般や技術についての概論、続いて著者が「プロ野球審判四十年」を振り返り、自身が裁いた「忘れがたい三試合」や「失策、紛糾、退場宣告」や「あのプレー、あの判定」についての回想の思い出話が多く語られる。そうして最後に「こんな珍プレーや急なアクシデントの場合の判定は?」の野球規則に関する「100問100答」が掲載されている。

著者の島秀之助が戦前の日本プロ野球成立の早創期から審判員として日本球界に長く深く携わっている「日本野球の生き字引」のような偉大な人なので、戦時下の日本野球の苦労や敗戦後の大学野球と日本プロ野球の蘇生など、回想の話題がかなり昔で、戦後生まれの一応は野球ファンである私には毎日や国鉄や東映の過去にあった球団チームや選手のことは、本書を読んでもほとんど分からないのである(笑)。私が知っているのは、せいぜい古くて巨人や西鉄や南海の特定球団に限られて川上哲治や稲尾和久や豊田泰光や鶴岡一人ら、戦後しばらくしてからの日本プロ野球界からで、普段「週刊ベースボール」や各社スポーツ新聞を楽しんで読んでいる身としては、岩波新書の黄、島秀之助「プロ野球審判の眼」での日本のプロ野球についての著者の回想は、どうしても時代が昔過ぎて私には分からず、読んで正直ハジけない読後の感想に落ち着いてしまう。

「昭和11年の発足以来、半世紀を経た日本のプロ野球。その華麗なる世界を支える孤独な審判生活を四十余年続けた元セ・リーグ審判部長が、名試合・珍プレーを回想し、苦心や失敗談もまじえつつ胸の内を初めて明かす。『ホームラン性のフライが鳥に当たってグラウンド内に落ちたら?』など、野球規則の面白さを伝える〈100問100答〉も収録」(表紙カバー裏解説)