アメジローの岩波新書の書評(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。岩波新書の書評が中心の教養読書ブログです。

岩波新書の書評(80)青柳正規「ローマ帝国」

岩波ジュニア新書は文字通り岩波新書の「ジュニア版」であり、中高校生を読者対象にしている。ゆえに例えば世界史分野のジュニア新書なら基本、中高生が学校教科書にて学習する世界史教授の解説で、しかしながら教科書副読本にのみとどまらない、時に教科書や学習参考書を逸脱した教養的な内容も掘り下げ、分かりやすく教えてくれる所が大人も岩波ジュニア新書を手にして読んで思いがけず楽しめるよさだ。学生以外の大人にも岩波ジュニア新書ファンの愛読者は案外、多いのではないか。

なかでも岩波ジュニア新書の世界史分野には昔から名著と評されるものが多い。川北稔「砂糖の世界史」(1996年)、遅塚忠躬「フランス革命」(1997年)、岩田靖夫「ヨーロッパ思想入門」(2003年)など。青柳正規「ローマ帝国」(2004年)も、そうした岩波ジュニアの世界史分野の新書の一冊である。

「『ローマは一日にして成らず』、史上もっとも繁栄した大国・古代ローマ帝国は、どのようにしてでき、滅んだのか。その広大な領域支配を可能にしたシステムとは?トロイア戦争に始まる建国神話、勇将ハンニバルとの戦い、カエサルのルビコン渡河、暴君ネロの常軌を逸した振舞いなど、エピソード豊富にその栄光の歴史を描きます」(裏表紙解説)

青柳「ローマ帝国」は、そのまま「ローマ帝国」の歴史概説であり、帝国の勃興から隆盛から分裂・解体までを一気に描いて時代区分、主要な人物や事件など標準的な高校世界史の教科書に準拠した内容となっている。学校で「ローマ帝国」について学習した中高生の副読本として、ないしは学校を卒業した社会人のための「大人の教養の世界史」の学び直しにも有益である。

一般に「ローマ帝国」とは、西洋古代史の総決算として地中海周辺およびヨーロッパを統一して成立した空前絶後の大帝国といわれる。ローマ帝国の圧倒的な優越と支配のもとに比較的平穏が保たれた時代を「ローマの平和(パクス・ロマーナ)」と呼ぶこともある。もちろん、その「平和」は軍事的・経済的に他の地域を圧倒凌駕する一国の強国によって人々が抑圧され抵抗できないため現象的に「平穏」で、あたかも「平和」が維持されているような錯覚の擬似的平和でしかなかったのも事実であるが。

そもそも「ローマ帝国」における「帝国」(インペリウム)とは何か。帝国の概念は一般の国家のそれとは違う。帝国とは、常に外部に膨張意識を持つ外延する国家である。帝国はグローバルな普遍性ないし統一性の観念を持つ。帝国は領土の拡大、覇権の拡張を常に目指す。例えば、現在の日本の国は軍事力にものを言わせて直接的な領土拡大の意思を持たない国家である、ゆえに日本国である。しかし、戦前は東アジアの周辺地域(朝鮮、台湾、太平洋諸国、シベリア、満州、中国)へ武力を背景に対外侵出を繰り返し、他民族の支配従属を目指していた。よって戦前の日本は大日本「帝国」であった。東京は、大日本帝国が四方に拡大発展する重要拠点の極点たる「帝都」であったのだ。今日、アメリカが自国のみならず、同盟国に軍事基地を築いて軍を駐留させたり、海外に派兵し各地域安定(?)のため「世界の警察」を自認して軍事力行使を頻繁にやる、アジアや中東各地において。このアメリカによる不当な軍事的圧力や直接的な武力行為の地域干渉を、アメリカの「帝国」主義的振る舞いとして非難する声は昔から根強い。帝国とは拡大膨張である。

ローマ帝国においても紀元前のヨーロッパ世界にて常に異民族を含む外部領域への侵出の衝動を持ち、周辺地域や遠方各地まで属州にして地中海世界の統一をはかった。なぜローマ帝国は「帝国」なのだろうか。なぜローマは執拗なまでに戦争をくり広げ、常に貪欲(どんよく)に領土拡張に努めなければいけなかったのか。この辺りのことは岩波ジュニア新書「ローマ帝国」にて解説されている(39─43ページ)。

その他、ローマ帝国が帝国として地中海世界の統一をなし得た帝国統治の仕組み(システム)は如何なるものであったか。ローマ法の法律とキリスト教の宗教政策の観点から少なからず考察されるべきだ。とりあえずは万国公法のローマ法の統治の策術と普遍宗教のキリスト教のイデオロギー教化である。それらは「帝国維持の論理」としての外的秩序の法律、内的秩序の宗教といってよい。

ギリシアやオリエントの文化国家が周辺地域の帝国統治をなし得なかったのに対し、なぜローマ帝国は他地域や異民族を属州支配できたのか。本書には残念ながらローマとギリシア・オリエント比較での、そのことに関する詳しい指摘の記述はない。ローマと、ギリシアならびにオリエントの文化や政治の相違として押さえられるべきであろう。さらにはローマ帝国の分裂滅亡の原因は何か、これも幅広く多方面から考えられなければならない。ローマ帝国の衰退・滅亡の理由は本新書にて幾つか挙げられてはいるが(168─182ページ)、本書記載分では(おそらくは)十分とは言いがたい。ローマ帝国の滅亡理由について、さらにもっと広く深く考えられるべきである。