アメジローの岩波新書の書評(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。岩波新書の書評が中心の教養読書ブログです。

岩波新書の書評(333)ねじめ正一「ぼくらの言葉塾」

詩人のねじめ正一のよさは、詩創作でも詩鑑賞でもこの人は、どちらかといえば詩作の内容よりも言葉の肉感の厚みや剥(む)き出しで生(なま)のままの言質の素材感や言葉そのものの強い響きを好んで重んじる、いわば「詩人の格闘系の肉体派」とも称すべき所だ。実のところ、第一線で昔から活躍し続けている詩人には様々な各人の嗜好(しこう)と型(タイプ)の個性がある。叙情派であるとか技巧タイプであるとか、怨念の情念派だとか政治的メッセージの反体制だとか。

以前にねじめ正一がNHK人間講座で「言葉の力・詩の力」(2001年)の詩講座をやっていて、そのテレビを私はよく視聴していた。当時のねじめ正一は壮年で比較的若く、見るからにこの人は体力がある。身体が出来ている。声量があって声質がよくて言葉が前に前に出る。事実、ねじめが良評価する詩をスタジオで自身で朗読すると、その声の大きさと強さの響き、声の通り具合の明瞭さと言葉の圧が強く前に出てくる真摯(しんし)な感じで、ねじめ正一の詩朗読によりその場が、否(いな)、世界全体が即に凍りついてしまうような緊張感があった。やはり、ねじめ正一は見るからに体力がある。身体が出来ている。声量があって声質がよくて言葉の圧が前に前に出てくる。ねじめ正一は、数ある詩人の中でも「格闘系の肉体派」の人であると私は思う。

岩波新書の赤、ねじめ正一「ぼくらの言葉塾」(2009年)は「言葉塾」のタイトルに対応して全6章が塾の授業カリキュラムの時間割のように「×時間目」の章割構成になっていて、なかなか凝(こ)った趣向である。ねじめ先生による「ぼくらの言葉塾」の授業コマは全6時間だ。ここにその時間割を載せてみると、

「1時間目・発見!自分の言葉、2時間目・言葉の関節を外す、3時間目・こわして作る─カゲキな言葉、4時間目・声で遊ぶ─朗読、5時間目・詩の秘密、6時間目・子どもの秘密」

さすがは詩人の執筆した書籍である。最初の目次のねじめ正一による章命名からして既に言葉の扱いが普通の書き手と異なる。言葉の選択センスがキラリと光る。感性に鋭いものがある。この人は言葉の扱いに熟知しており、手馴れている。例えば「2時間目」は「言葉の関節を外す」である(笑)。「そもそも言葉に関節なんてあるのか!?」などと、そんな野暮(やぼ)なことは聞いてはいけない。何ら確固たる根拠はないけれど、ねじめ正一が言うのだから「言葉に関節はある」のである(笑)。詩人は狭いリングの固いマットの上で言葉とガチンコで組んで寝技のグランドの攻防に持ち込み関節技をキメて相手にタップさせる勢いで、まさに「言葉の間接を外す」のだ。なぜなら、ねじめ正一において詩作は詩人と言葉との直接対決の真剣勝負の格闘技であるのだから。

なるほど、岩波新書「ぼくらの言葉塾」を読んでいると、「呪文のような力のある言葉の繰り返し」や「人の中にまっすぐ入っていく詩の言葉」や「肉体をぶん投げられる言葉のパワー」ら、ねじめの熱い言葉が次から次へと出てくる。おまけに「俳句甲子園」や「詩のボクシング」らスポーツの大会や格闘技の試合に詩作と詩朗読とを模した、ねじめの言及もある。繰り返しになるけれど、ねじめ正一は数ある詩人の中でも言葉の肉感の厚みや剥き出しで生のままの言質の素材感や言葉そのものの強い響きを好んで重んじる、いわば「詩人の格闘系の肉体派」である。もうね、俺には、ねじめ正一の詩を読んだり、ねじめが他の人の詩を朗読している音声を聞いたり映像を一瞬見ただけで、オープンフィンガー・グローブをはめファイティングポーズをとって構えているねじめの勇姿が即脳裏に浮かぶよ(笑)。

本書には、ねじめ正一が「この詩は良い、優れている、言葉ってすごい」と思う各詩を取り上げて、「なぜその詩がすごいのか」を解説する形で「ぼくらの言葉塾」の授業は進む。ねじめ正一が選ぶのは、言葉の正統性を重んじた丁寧で折り目正しい精緻(せいち)な言葉の取り扱いや、正確な観察に裏打ちされた正しい言語選択や、逃げたり怯(ひる)んだりすることなく正面から堂々とぶつかってくる力のある言葉や、ナンセンス語や擬音語の連発の時に意味のないリズムと勢いだけの現状突破な得体の知れないパワフルで過激な言葉らで構成された詩である。岩波新書「ぼくらの言葉塾」は、詩人のねじめ正一をあまり知らない人でも、ねじめがどういう詩作をして、また彼が詩を評価する際にどういった点に重きを置くのか、ねじめ正一その人の「人となり」まで本書一冊を読んでだいたい分かる良書だと思う。

岩波新書の赤、ねじめ正一「ぼくらの言葉塾」に取り上げられ引用紹介されている詩は、ねじめ本人の詩を始めとして、辻征夫、石垣りん、谷川俊太郎、まど・みちお、阪田寛夫、甲本ヒロト、町田康、伊藤比呂美、竹内浩三、長新太、いとうひろしらのものである。最大限の敬意と細やかな配慮を込めて各詩をねじめ正一が、とても丁寧に解説している。

「『言葉って、すごいなあ』。本当に強い言葉は、人のいちばん奥底にまで届く。この本は、そんな心に響く言葉たちを、詩から、歌から、俳句から集め、言葉の味わい方・楽しみ方を指南します。詩が好きな人、詩をつくる人、詩を朗読する人はとくに必読!言葉の回路全開のねじめ先生が、パワフルに過激にスリリングに語ります」(表紙カバー裏解説)