アメジローの岩波新書の書評(集成)

岩波新書の書評が中心の教養読書ブログです。

岩波新書の書評(255)眞淳平「人類の歴史を変えた8つのできごと」

先日、岩波新書ジュニア新書の眞淳平(しん・じゅんぺい)「人類の歴史を変えた8つのできごとⅠ ・言語・宗教・農耕・お金編」(2012年)と「人類の歴史を変えた8つのできごとII・民主主義・報道機関・産業革命・原子爆弾編 」(2012年)を読んでみた。

岩波ジュニア新書編集部による、本新書の公式紹介文はこうだ。

「人類が文明を持つようになってから現在までの間に起きた、人類史を根底から変えた大きなできごとを紹介します。第Ⅰ巻では言語、宗教、農耕、お金を取り上げます。第II巻では民主主義の歴史、報道機関の役割、産業技術の発展、戦争の歴史を取り上げます。人間社会にとって欠かすことができないこれらの出来事がどのように成立し、どのように発達してきたのか、豊富な資料をもとに長い人類の歩みをわかりやすく解説します。発生・成立から伝播の過程、人々に与えた影響や意義、そして未来への展望まで、1万年以上に及ぶ人類の歩みを独自の切り口でまとめあげた人類文明史」

率直にテーマの切り口が面白いと思う。こういう新書は記述内容はともかく、企画発案の勝利のような気がする。「人類の歴史を変えた8つのできごと」という長い人類史をあえて「8つのできごと」の切り口で大胆に斬ってみせる所が面白い。当然、岩波ジュニア新書の10代の中高生向けジュヴナイルであるので「8つのできごと」各項目選択の妥当性や各出来事内容の説明記述の厳密さについて書評するのは、なしだ。本新書に関し、「8つのできごと」各項目選択の妥当性や各出来事内容の説明記述の厳密さについて本気で痛烈批判している大人の書評を時に見かけるが(説明が正確でないとか)、大人の読者からのそうした本気の批判は場違いで野暮(やぼ)というものである。

第Ⅰ巻は「言語の登場、宗教の誕生、農耕の開始、お金の登場」を取り上げており、「人類の歴史を変えた8つのできごと」として(おそらくは)多くの人が同意するであろう極めて客観性ある妥当なものだが、第Ⅱ巻になると「民主主義の登場、報道機関の登場、科学技術の発展と産業革命、戦争技術の進化と原爆投下」が選ばれており、著者のかなりの主観が入る。例えば「報道機関(マスコミ)の登場」は「民主主義の登場」と重なるテーマで、クドい重複の感は免れない。しかし、それは著者が岩波ジュニア新書を手に取り読む若い読者に「報道機関の登場」たるマスメディアの正統な役割を学んで知ってもらいたいと強く願っているからであって、著者の若い読者へ向けたその気持ちに私は共感できる。同様に「戦争技術の進化と原爆投下」にて、あえて「原爆投下」をクローズアップして「人類の歴史を変えた8つのできごと」のひとつにしているのも、現代の日本の若者へ向けての著者なりの反核平和教育の配慮であろう。

その他、本新書に対して私が面白く思ったのは新書タイトルが今風であって、つまりは「論述テーマないしは具体的目的・効用+数字の箇条書き」という要素からなる表題が現在ネット上でよくみる記事見出しと同様な所が、いかにも2010年代の現代的な書籍タイトルの付け方という感じがする。

今日、人々が他者や社会に向けて発する文章は過剰なまでに溢(あふ)れており、公私にかかわらず、つぶやき発言やネット上のブログや配信記事や書店にての販売書籍は異常に多くあり、全ての文章が広く人々に読まれるわけでは決してない。そうした「読んでもらいたい」文章の洪水の氾濫(はんらん)の中で、とりあえず世間の人々の耳目を集め注目されて優先的に読まれるために、あえて突飛で過激な発言や文筆をやるとか、敵対他罰で特定の人(たち)を異常なまでに攻撃して叩く、いわゆる「炎上」や「煽(あお)り」の現象が昨今では多く見られる。

同様に、手軽に素早く効率的に論旨が読み手に把握できるように、「論述テーマないしは具体的目的・効用」と「数字の箇条書き」からなる記事や書籍のタイトルが現在では重宝されて常用される。とにかく数字の箇条書きは平板で分かりやすい。例えば「××が上達するための8つの方法」における、「××上達のためにやるべき方法は8つだけ。それ以外にはない。たったそれだけ」といった具合である。人々によく読まれたいがために、そういった分かりやすさの功利を狙ったお手軽タイトルの安直さを正直、私はどうかと思わないこともないけれど。

岩波ジュニア新書、眞淳平「人類の歴史を変えた8つのできごと」は、そうした「現代に氾濫する文章や書籍を書き手の皆が広く読まれたいと願っている事情の戦略」を踏まえた新書タイトルのようにも私には思えた。本書の著者・眞淳平は「人類が生まれるための12の偶然」(2009年)という同様な数字羅列のタイトル書籍を、過去に岩波ジュニア新書から出している。