アメジローの岩波新書の書評(集成)

岩波新書の書評が中心の教養読書ブログです。

岩波新書の書評(388)鈴木敏夫「仕事道楽 新版 スタジオジブリの現場」

テクノバンドの「YMO」について、以前に元「ピチカート・ファイヴ」(Pizzicato・Five)の小西康陽が「YMOは最高だったけど、でも彼らを取り巻く文化人とかスタッフとか正直言って嫌だったな。ただ理由なく嫌いっていうのは、何かわかんないけど、ゴメン」と語っていた。アニメ制作会社「スタジオジブリ」に対する私の思いも小西康陽のYMOに対するものと同じだ。「ジブリはそこそこ最高なんだけど、ジブリを取り巻く周りの人達が正直言って嫌。明確な理由はないけれど、何かゴメン」なのである。

私はそこまでのアニメ・ファンというわけではないが、スタジオジブリの作品は昔からだいたい観ていた。初期の「風の谷のナウシカ」(1984年)から大ヒットの「もののけ姫」(1997年)や「千と千尋の神隠し」(2001年)を経て、近年の「風立ちぬ」(2013年)まで思い返せば、ほぼ全作観ている。ジブリ作品の中では高畑勲が監督した「火垂るの墓」(1988年)が特に良いと思う。思えば、1988年の日本がバブル経済絶好調で皆が陽気に消費に浮かれていた時代に野坂昭如の原作を素材にし、戦時の物質的貧困と親戚他者とのコミュニケーション不全のために生き残れず、若く幼くして亡くなった兄妹の物語として「火垂るの墓」という長編アニメに編(あ)み直して、あえて好景気バブル時代の日本の世に問うた監督・高畑勲の力量の凄まじさを私は思い知らされたのだ。

ただ冒頭で述べたように、スタジオジブリのファンで「ナウシカ」を始めとしたジブリ作品を熱心に語るアニメ・ファンの身近な知り合いや、メディアでジブリ・ファンを公言して作品解説をするようなジブリ周辺の人達(芸能人や評論家や編集者ら)が正直、私は昔からあまり好きではなかった。

直接に名を言うと何だが(笑)、例えばジブリ周辺の人で、アニメ業界に長くいて評論・文筆活動をやっている岡田斗司夫など、どうしても怪しくて昔から私は好きになれないのだった(苦笑)。前に岡田斗司夫の有料配信動画で「岡田斗司夫ゼミ・高畑勲追悼特集・生は醜く死はこんなにも美しい。本当は1000倍怖い火垂るの墓」(2018年)という高畑勲「火垂るの墓」に関する完全解説動画を視聴した。あれは有料配信なので「ネタばれ」になるから岡田の謎解き解説の詳しい内容をここには書けないけれど、私は視聴して岡田斗司夫の「火垂るの墓」トンデモ解釈にあきれてしまった。高畑勲もせっかく一生懸命に丁寧に思いを込めて作ったのに、自作に関し岡田のような的(まと)はずれなトンデモ解説をされるとは、端から見て映画「火垂るの墓」の作品自体のみならず、制作のスタジオジブリのスタッフと高畑勲が誠に気の毒である。当の岡田斗司夫も、あのような明らかにおかしいトンデモ解釈を得意気に自信満々に披露して、有料動画で楽して小銭を稼いだりしてはいけない。

岩波新書の赤、鈴木敏夫「仕事道楽・新版・スタジオジブリの現場」(2014年)は、まず岩波新書から出ていることに奇妙な思いがする。私の中では宮崎駿らスタジオジブリ関連の書籍は、ジブリのスポンサーである徳間書店から出るものだと思っていたから。アニメ制作のジブリ関連の書籍が、硬派で時に難しめの学術新書を普段は出している岩波新書から出ているのが意外な感じがした。いつもは真面目な報道ニュースや硬派な社会派ドキュメンタリーを制作・放映しているNHKが時々、若者人気の流行のアイドルグループ「AKB48」のコント番組や密着ドキュメントを非常に時間をかけて丁寧に制作し放映しているのを視聴したときのような、そういった意外な心持ちがする。

「『いつも現在進行形、面白いのは目の前のこと。』 好きなものを好きなように作りつづけ、アニメーション映画制作の最前線を駆け抜けてきたジブリも三0年。高畑勲監督の一四年ぶりの新作公開、宮崎駿監督の『引退宣言』と大きな転換期を迎えた今、プロデューサー・鈴木敏夫が語ることとは?口絵も一新、新章を加えた決定版!」(表紙カバー裏解説)

本新書は元からあった岩波新書「仕事道楽・スタジオジブリの現場」(2008年)に新章を増補して「新版」として新たに出されたものである。この「新版」は2014年の出版であるからスタジオジブリの仕事から見て、前版はスタジオ設立から「ゲド戦記」(2006年)辺りまでのジブリであるが、今回の「新版」は、それ以降の「コクリコ坂から」(2011年)や「風立ちぬ」(2013年)や「かぐや姫の物語」(2013年)くらいまでの作品制作時期に重なっている。「新版」にて増補された新たな章を読むと、「風立ちぬ」や「かぐや姫の物語」の話がよく出てくる。この「新版」に新しく加えられた新章には宮崎駿の「長編映画制作からの引退宣言」(2013年)(←本当に引退するの!?)もあり、私は本書を読んだ後に再度、早急に宮崎駿の「風立ちぬ」を見返したくなっていた。

岩波新書の赤、鈴木敏夫「仕事道楽・新版・スタジオジブリの現場」は、歴代のスタジオジブリ作品と宮崎駿や高畑勲や鈴木敏夫らジブリの関係者が好きなファンの読者には確実に読んで面白いに違いない。また将来、アニメ業界志望のクリエイターにも多いに参考になるに相違ない。私は人並みにジブリの長編アニメは観ているけれども、そこまでの熱心なアニメ・ファンでも、ジブリの熱烈なファンでもないので本書を一読して「まぁ、それなり」のそこまで記憶に残らない無難な読後の感想である。