アメジローの岩波新書の書評(集成)

岩波新書の書評が中心の教養読書ブログです。

世界史・日本史

岩波新書の書評(415)都出比呂志「古代国家はいつ成立したか」

岩波新書の赤、都出比呂志「古代国家はいつ成立したか」(2011年)は時折、定期的に読み返してみて「専門の研究者による一般読者へ向けての日本古代史研究に関する非常にサーヴィス精神に満ちた親切な語り下ろしの読み物」といった好感の思いが毎度、私はす…

岩波新書の書評(410)田中彰「明治維新と西洋文明」

岩波新書の赤、田中彰「明治維新と西洋文明」(2003年)の概要はこうだ。 「男⼥の⾵俗、議会、⼯場、公園に博物館─ 明治初年、近代化の課題を背負って⼆年近い欧⽶視察の旅を続けた『岩倉使節団』にとって、⻄洋⽂明との出合いは衝撃の連続だった。その公的…

岩波新書の書評(399)藤間生大「倭の五王」

「倭の五王」は、中国南朝の宋の正史「宋書」に登場する倭国の五人の倭王、讃・珍・済・興・武をいう。421年から502年の間に五人の倭王が宋ら南朝と13回通交した記事が「宋書」などにある。この間、およそ1世紀近くに渡り、晋、宋、斉の諸帝国に遣使入貢し…

岩波新書の書評(394)江口圭一「1941年12月8日 アジア太平洋戦争はなぜ起こったか」(その3)

(前回からの続き)1941年12月8日の日本のアメリカ・ハワイへの真珠湾攻撃に始まる日米間での太平洋戦争は、なぜ起こったのか。日米開戦の回避を目指した日本とアメリカとの日米交渉が不和に終わり、太平洋戦争が勃発した主要な理由を以下に挙げてみる。 (4)…

岩波新書の書評(393)江口圭一「1941年12月8日 アジア太平洋戦争はなぜ起こったか」(その2)

(前回からの続き)1941年12月8日の日本のアメリカ・ハワイへの真珠湾攻撃に始まる日米間での太平洋戦争は、なぜ起こったのか。日米開戦の回避を目指した日本とアメリカとの日米交渉が不和に終わり、太平洋戦争が勃発した主要な理由を以下に挙げてみる。 (3)…

岩波新書の書評(392)江口圭一「1941年12月8日 アジア太平洋戦争はなぜ起こったか」(その1)

1941年12月8日の日本のアメリカ・ハワイへの真珠湾攻撃に始まる日米間での太平洋戦争は、なぜ起こったのか。太平洋戦争(1941─45年)に至るまでの直近の歴史射程でいえば、開戦前年の日本の日独伊三国軍事同盟(1940年)の締結が、後に開催される日米交渉(1…

岩波新書の書評(387)笠原十九司「南京事件」

岩波新書の赤、笠原十九司「南京事件」(1997年)のタイトルになっている「南京事件」については、「南京事件は、日中戦争(支那事変)初頭の1937年12月、日本軍が南京を占領した際、約二カ月にわたって多数の中国軍捕虜、敗残兵、便衣兵および一般市民を不…

岩波新書の書評(381)林三郎「太平洋戦争陸戦概史」

先日、たまたま書店に立ち寄ったら岩波新書の林三郎「太平洋戦争陸戦概史」(1951年)が「岩波新書クラシックス限定復刊」で復刊されていたので、本書はすでに昔の版を所有していたが、つい購入してしまった。 本新書はそのタイトル通り、第二次世界大戦の東…

岩波新書の書評(376)小泉信三「福沢諭吉」

岩波新書は日本で最初の新書の老舗(しにせ)である。岩波新書は、既刊の古典の再収録ではない、新たな書き下ろし作品による一般啓蒙書を廉価(れんか)で提供することを目的として1938年に創刊され、日本で「新書」と呼ばれる出版形態の創始となった。それ…

岩波新書の書評(375)森島恒雄「魔女狩り」

「魔女狩り」とは、「魔女」とされた被疑者に対する訴追、裁判、刑罰の手続きを経た公的司法、あるいは法的手続きを経ない私刑等の一連の迫害を指す。魔術を使ったと疑われる者を裁いたり制裁を加えることは古代から行われていたが、ヨーロッパ中世末期には…

岩波新書の書評(369)子安宣邦「本居宣長」

江戸時代の国学者である本居宣長は、一般にはそこまで広く知られた存在ではないと思うが、歴史学を始めとして文芸批評や古典研究や政治学や倫理思想史ら各識者からの研究ないしは言及が多くなされ、本居宣長に関しては昔から活況の様相である。このことから…

岩波新書の書評(361)大木毅「独ソ戦」

岩波新書の赤、大木毅「独ソ戦」(2019年)は、中央公論新社が主催の優れた新書へ投票される「新書大賞」の2020年度の大賞を受賞しており、異例の大ヒットで大変に人気で広く読まれているらしいので先日、私も読んでみた。本新書は、戦闘員と民間人の大量死…

岩波新書の書評(360)大江志乃夫「御前会議」

日本近現代史専攻の歴史学者であり、なかでも軍事史に優れた業績を残した大江志乃夫の著作には「岩波新書三部作」とも呼ばれるべきものがある。岩波新書の「戒厳令」(1978年)と「徴兵制」(1981年)と「靖国神社」(1984年)である。だがしかし、今回は「…

岩波新書の書評(359)大江志乃夫「統帥権」

日本近現代史専攻の歴史学者であり、なかでも軍事史に優れた業績を残した大江志乃夫の著作には「岩波新書三部作」とも呼ばれるべきものがある。岩波新書の「戒厳令」(1978年)と「徴兵制」(1981年)と「靖国神社」(1984年)である。だがしかし、今回は「…

岩波新書の書評(358)大江志乃夫「戒厳令」

日本近現代史専攻の歴史学者であり、なかでも軍事史に優れた業績を残した大江志乃夫の著作には「岩波新書三部作」とも呼ばれるべきものがある。岩波新書の「戒厳令」(1978年)と「徴兵制」(1981年)と「靖国神社」(1984年)である。今回は、大江志乃夫の…

岩波新書の書評(357)大江志乃夫「徴兵制」

日本近現代史専攻の歴史学者であり、なかでも軍事史に優れた業績を残した大江志乃夫(1928─2009年)と私は同郷で、大江志乃夫本人や大江の親族と何ら交流あるわけではないが、「同郷の人間」の一読者として私は昔から勝手に大江その人に親密を抱き、大江志乃…

岩波新書の書評(350)保立道久「歴史のなかの大地動乱」

現在の地震研究では一応は試みられてはいるが、確固たる科学理論に基づく決定論的な「地震予知」はできないので、統計に基づいた過去の地震発生事例、文献史料や過去記録のデータベースからその発生周期を確率論的に導き出す「地震予測」が今日では便宜的に…

岩波新書の書評(346)永原慶二「源頼朝」

源頼朝といえば、言わずと知れた鎌倉幕府を開いた初代将軍であり、岩波新書の青、永原慶二「源頼朝」(1958年)は頼朝の出生から死去までの生涯を時系列で一気に書き抜いた評伝である。あらためて源頼朝の概要を押さえておくと、 「源頼朝(1147─99年)。義…

岩波新書の書評(343)野田又夫「ルネサンスの思想家たち」

岩波新書の青、野田又夫「ルネサンスの思想家たち」(1963年)の書き出しはこうだ。 「ルネサンス時代をだいたい十五世紀から十六世紀と見て、そこにあらわれた思想家の一人一人の像をできるだけ近い距離でえがいて見ようと思う。そして同時にそれらの全部を…

岩波新書の書評(324)吉田裕「昭和天皇の終戦史」(その2)

私は一時期、天皇の公私にわたる発言や会話を記録し紹介した書籍を熱心に読み漁(あさ)っていたことがあった。天皇が日々どういった公式発言や近親の者たちと会話をしたのかに大変に興味があったからだ。特に昭和天皇(天皇裕仁)についての、そうした記録…

岩波新書の書評(323)吉田裕「昭和天皇の終戦史」(その1)

私は一時期、天皇の公私にわたる発言や会話を記録し紹介した書籍を熱心に読み漁(あさ)っていたことがあった。天皇が日々どういった公式発言や近親の者たちと会話をしたのかに大変に興味があったからだ。そうした記録に残されている昭和天皇(天皇裕仁)と…

岩波新書の書評(319)成田龍一「大正デモクラシー」

1945年の敗戦以前の戦前の生まれで戦争を経験した世代で、戦後に戦時の日本の軍国主義の戦争責任を問われて、「日本の近代は明治と大正はそれなりに民主的であったし国民の自由はある程度は保障され、社会の時代雰囲気は明るいものがあった。明治国家のナシ…

岩波新書の書評(314)和田春樹「歴史としての社会主義」

1991年、「ペレストロイカ」の過程はついにソ連共産党とソ連邦の終わりをもたらし、計画経済体制は崩壊した。1917年のロシア革命から続いたソ連型の社会主義、国家社会主義の破綻が明らかになった。1917年のロシア革命によるソ連邦の社会主義国成立から1991…

岩波新書の書評(302)森本公誠「東大寺のなりたち」

華厳宗大本山東大寺は聖武天皇の発願(ほつがん)に始まる寺院である。東大寺といえば、大仏殿に鎮座する盧舎那仏(るしゃなぶつ)が何よりも想起されるに違いない。岩波新書の赤、森本公誠「東大寺のなりたち」(2018年)にも書かれてある通り、東大寺の歴…

岩波新書の書評(292)小長谷正明「医学探偵の歴史事件簿」

先日、岩波新書の赤、小長谷正明「医学探偵の歴史事件簿」(2014年)を読んでみた。「歴史上の人物の行動には病気が深く関わっていた。遺伝子鑑定や歴史記録の解読を通じて、その真相を推理する。病気持ちの大統領や独裁者、王様たちが歴史をどう変えたか。…

岩波新書の書評(290)家永三郎「日本文化史」

岩波新書の黄、家永三郎「日本文化史」(1982年)は、原始・古代から近世の時代にかけての日本文化の歴史の概観である。以下のような「Ⅰ・原始社会の文化」の章での著者の家永三郎による書き出しを読むにつけ、「いかん、この人は従来型の国家の歴史を中心と…

岩波新書の書評(289)吉川幸次郎「漢の武帝」

漢の武帝(前159─87年)は、前漢第7代皇帝である。前漢は武帝時代に事実上の中央集権化が達成され、武帝は匈奴を始め周辺民族を従属させて儒学の官学化ををはかり、漢の全盛期を形成した。岩波新書の青、吉川幸次郎「漢の武帝」(1949年)は、そうした漢の…

岩波新書の書評(288)河野健二「フランス革命小史」

古典のマルクス「ルイ・ボナパルトのブルュメール18日」(1852年)から、比較的近年の遅塚忠躬(ちづか・ただみ)「フランス革命・歴史における劇薬」(1997年)まで、フランス革命に関する書籍は昔から誰の何を読んでも面白い。それはフランス革命を叙述す…

岩波新書の書評(284)網野善彦「日本社会の歴史」

書籍は著者が書きたいものを書き、それを出版して世に問いたいから彼は本を執筆するのが常だが、時に著者よりも出版社や編集者の方に売れ筋狙いや時代状況を勘案して「こうした書籍を自社から出して是非世に問いたい」強い思いがまずあって、後に著者に執筆…

岩波新書の書評(280)五木寛之「蓮如」

「世上の宗教家としての評価や専門の歴史研究にて、蓮如に様々な問題が指摘されているけれど、蓮如にはどこか不思議な謎めいた影があり、私はそこに心ひかれて親しみを感じる。私は蓮如が好きなのだ」。岩波新書の赤、五木寛之「蓮如」(1994年)は、蓮如の…