アメジローの岩波新書の書評(集成)

岩波新書の書評が中心の教養読書ブログです。

経済・社会

岩波新書の書評(377)亀田達也「モラルの起源」

岩波新書の赤、亀田達也「モラルの起源」(2017年)によれば、人間のもつ価値や倫理は、自然科学の経験的事実による知識と人文科学の理論的考察による知恵よりなる。そこで本書では人間社会の利他、共感、正義やモラルといったテーマに関し、自然知と人文知…

岩波新書の書評(374)玄田有史「希望のつくり方」

原理的にいって、希望はまず絶望ないしは失望や虚無の状況がないと生まれない。人は、ある日ある時、突然おもむろに漠然と希望を抱くのではなくて、平穏な日常から不条理に突如、絶望に叩き込まれたり失望や虚無を激しく感じた後に改めて希望を自身や状況の…

岩波新書の書評(368)本田由紀「教育は何を評価してきたのか」

教育社会学専攻の本田由紀に関しては前々から知ってそれとなく著書も読んでいたが、私が彼女のファンになったのは本田由紀が参加した岩波新書「岩波新書で『戦後』をよむ」(2015年)が決定的だった。岩波新書の「岩波新書で『戦後』をよむ」は「戦後」に出…

岩波新書の書評(364)山口誠「客室乗務員の誕生」

航空会社の客室乗務員の正式名称はキャビン・アテンダント(Cabin・Attendant)であり、今日一般的には「CA」と呼ばれる。客室乗務員とは上空を飛行する旅客機の客室に常駐し、乗客の安全確保や飲食提供などの乗務に専従する航空界ならではの職業である。航…

岩波新書の書評(355)福間良明「『勤労青年』の教養文化史」

岩波新書の赤、福間良明「『勤労青年』の教養文化史」(2020年)は、家計困難など諸々の家庭の事情で大学・全日制高校進学を断念して就職した戦後の日本の「勤労青年」たちが、働きながらも夜間の定時制高校や通信教育で積極的に学ぼうとする日本の戦後社会…

岩波新書の書評(337)松田道雄「私は二歳」

岩波新書の青、松田道雄「私は二歳」(1961年)は小児科医師で育児評論家である著者による育児百科事典的な新書だ。タイトル通り「二歳前後の子ども」の育児について、食事、しつけ、病気、ケガ、事故、いたずら、友だち遊び…の各観点から子育て中の父母の悩…

岩波新書の書評(332)白井恭弘「外国語学習の科学」

外国語学習に際しての語学習得のコツについて、「継続は力なり。習うより慣れよの反復練習を繰り返せ」とか、「語学力は実戦で鍛えられる。とりあえず実際に聞いて話して書いての経験を積め」などとよく言われるが、そういった単なる「反復の慣れ」や「実戦…

岩波新書の書評(325)竹内悊「生きるための図書館」

岩波新書の赤、竹内悊(たけうち・さとる)「生きるための図書館」(2019年)の概要は以下だ。 「人に寄り添い、本の声を届ける。子どもにも大人にも、図書館は多様な場であり、図書館員はそこで本との出会いをつくる。公立図書館設立への原動力となった文庫…

岩波新書の書評(322)千野栄一「外国語上達法」

岩波新書の黄、千野栄一「外国語上達法」(1986年)の概要はこうだ。「外国語コンプレックスに悩む一学生は、どのようにして英・独・仏・チェコ語をはじめとする数々のことばをモノにしていったか。辞書・学習書の選び方、発音・語彙・会話の身につけ方、文…

岩波新書の書評(317)速水敏彦「他人を見下す若者たち」

(今回は、講談社現代新書、速水敏彦「他人を見下す若者たち」についての書評を「岩波新書の書評」ブログですが、例外的に載せます。念のため、速水敏彦「他人を見下す若者たち」は岩波新書ではありません。) 私の感慨としてどうも最近、他人を見下す人が多…

岩波新書の書評(313)吉見俊哉「平成時代」

時代が「平成から令和へ」移り変わる際に、これまでの「平成」の日本社会の歴史を振り返り総括しておこうとする企画の書籍が各出版社から多く出された。岩波新書の赤、吉見俊哉「平成時代」(2019年)は岩波書店による、そうした企画の内の一冊である。 本書…

岩波新書の書評(312)島秀之助「プロ野球審判の眼」

現役のプロ野球選手や引退後の監督・コーチや評論家、各チームや特定選手に付いている番記者ら、いわゆる「野球人」による野球に関する書籍はだいたい誰の何を読んでも面白い。現役時代は巨人の内野手であり、引退後にヤクルトと西武の監督をやって優勝させ…

岩波新書の書評(311)高須俊明「酒と健康」

私は昔から酒が好きで、しかも体質的に酒に強い。いくら痛飲しても酔っ払って記憶が飛んだとか、翌日に二日酔いの頭痛や不調に悩まされた経験がない。だから今でもほぼ毎日、飲酒する。 酒飲みというのは、自宅で晩酌すると長時間飲んできりがなく家人に嫌わ…

岩波新書の書評(310)師岡康子「ヘイト・スピーチとは何か」

「ヘイトスピーチ」について、岩波新書の赤、師岡康子「ヘイト・スピーチとは何か」(2013年)によれば、その定義は以下だ。 「広義では、人種、民族、国籍、性などの属性を有するマイノリティの集団もしくは個人に対し、その属性を理由とする差別的表現であ…

岩波新書の書評(301)古厩忠夫「裏日本」

岩波新書の赤、古厩忠夫(ふるまや・ただお)「裏日本」(1997年)のタイトルになっている「裏日本」とは、本州の日本海地域、とりわけ北陸・山陰地方のことを指す。主な県名でいえば北陸の新潟と富山と石川と福井、山陰の鳥取と島根の各県ということになる…

岩波新書の書評(300)立花隆「ぼくはこんな本を読んできた」

(今回は、立花隆「ぼくはこんな本を読んできた」についての書評を「岩波新書の書評」ブログではあるが、例外的に載せます。念のため、立花「ぼくはこんな本を読んできた」は岩波新書ではありません。) 昨今では読書論や読書術の書籍が多く出されているが、…

岩波新書の書評(298)奥村正二「火縄銃から黒船まで」

私は高校卒業後に普通自動車第一種運転免許の四輪を取得したら、原動機付自転車の二輪免許も自動的に付いてきたので、10代の頃から原付二輪に乗っていた。昔から乗り続けて今でも乗っている。私の場合、原付の車種は昔から「ホンダ・カブ」一択で、カブを乗…

岩波新書の書評(296)佐久間充「ああダンプ街道」

岩波新書の黄、佐久間充「ああダンプ街道」(1984年)の概要はこうだ。 「建築資材や埋立てに使われる山砂の主産地、千葉県君津市ではこの二十年、丘陵が次々に削られ、一日に四千台も通るダンプカーが沿道住民に騒音、振動、交通災害や粉じんによる健康破壊…

岩波新書の書評(283)宇沢弘文「自動車の社会的費用」

岩波新書の青、宇沢弘文「自動車の社会的費用」(1974年)は昔から広く知られ、よく読まれている名著である。本新書に対しては「戦後日本の自動車中心社会に対する警鐘批判」への共感と、それとは逆張りの「著者も時に自動車を利用し日常的に自動車社会の恩…

岩波新書の書評(281)茂木清夫「地震予知を考える」

「地震予知」とは、地震の発生を予(あらかじ)め知ることだ。より厳密に学術的に言えば次のようになる。 「地震予知とは、科学的方法により地震発生の時期・場所・規模の三要素を論理立てて『予測』することである」 この「地震予知」定義にて特に重要なの…

岩波新書の書評(279)添田孝史「原発と大津波 警告を葬った人々」

2011年の東日本大震災による地震動と津波の被害を受けて、東京電力の福島第一原子力発電所は炉心溶融(メルトダウン)の放射性物質漏(も)れ過酷事故を起こす。 そこで事後に、東京電力の社長や会社幹部が口をそろえて「このような高い津波は実際に来ないと…

岩波新書の書評(276)吉見俊哉「大学とは何か」

2000年代以降の岩波新書の力作の良著で私にまず思い浮かぶのは、吉見俊哉「大学とは何か」(2011年)だ。本新書は内容もさることながら、著者の吉見俊哉の硬質な文章がよい。失策のない社会科学の硬い文体であり、考察内容はともかく文章記述がよいだけでそ…

岩波新書の書評(268)森嶋通夫「イギリスと日本」

岩波新書の黄、森嶋通夫「イギリスと日本」(1977年)は当時かなり好評人気で広く読まれたらしく、後に同じ岩波新書から「続・イギリスと日本」(1978年)も出ている。また「岩波新書のオールタイム・ベスト」のような読書アンケート企画にて、森嶋「イギリ…

岩波新書の書評(260)岩波ジュニア新書編集部「ホンキのキホン」

10代の中高生向け読み物のジュヴナイルである岩波ジュニア新書は、1979年の創刊で2019年には創刊40年の節目を迎える。その際にジュニア新書編集部が創刊40年記念冊子として出したのが「ホンキのキホン・岩波ジュニア新書読書ガイドブック」(2019年)であり…

岩波新書の書評(258)岩波書店編集部「岩波新書をよむ」

皆さんは普段、読書で「次はどんな本を読もうか」迷い考えるとき、何を参考にされてますか?岩波新書に関する限り、私は岩波新書の赤、岩波書店編集部編「岩波新書をよむ」(1998年)を参照して「次はこの新書を読んでみよう」とか、「以前に読んだけれど内…

岩波新書の書評(255)眞淳平「人類の歴史を変えた8つのできごと」

先日、岩波新書ジュニア新書の眞淳平(しん・じゅんぺい)「人類の歴史を変えた8つのできごとⅠ ・言語・宗教・農耕・お金編」(2012年)と「人類の歴史を変えた8つのできごとII・民主主義・報道機関・産業革命・原子爆弾編 」(2012年)を読んでみた。岩波ジ…

岩波新書の書評(252)藤原辰史「給食の歴史」

岩波新書の赤、藤原辰史「給食の歴史」(2018年)の表紙カバー裏解説文は次のようになっている。「学校で毎日のように口にしてきた給食。楽しかった人も、苦痛の時間だった人もいるはず。子どもの味覚に対する権力行使ともいえる側面と、未来へ命をつなぎ新…

岩波新書の書評(245)原武史「平成の終焉」

「平成の終焉」は、天皇明仁(あきひと)による退位の意向表明にて始まった。2016年7月のNHKニュースにて第一報が流され、翌8月に天皇自身がテレビに出演しビデオメッセージとして「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」を読み上げた。その後、…

岩波新書の書評(242)土屋喬雄「日本資本主義史上の指導者たち」

戦前昭和に出版された岩波新書の赤、土屋喬雄(つちや・たかお)「日本資本主義史上の指導者たち」(1939年)は、一読して正直「あまり面白くない」。本書は「日本資本主義史上の指導者たち」として、近代日本の資本主義的発展に貢献した人々を各章ごとに挙…

岩波新書の書評(241)柴田徳衛「東京」

ある書籍が残念ながら、それ一冊で内容に熱狂出来なかったり読みごたえに欠けたりする場合、その一冊のみで完結させず、他の類著と読み比べてみたり、シリーズものであるなら前著や次著との断絶・連続性を意識して読み進める工夫の「読書の楽しみ」がある。…