アメジローの岩波新書の書評(集成)

岩波新書の書評が中心の教養読書ブログです。

文学・芸術

岩波新書の書評(299)芦田愛菜「まなの本棚」

(今回は、芦田愛菜「まなの本棚」についての書評を「岩波新書の書評」ブログではあるが、例外的に載せます。念のため、芦田「まなの本棚」は岩波新書ではありません。) 先日、芦田愛菜「まなの本棚」(2019年)を読んだ。芦田愛菜は女優、タレントである。…

岩波新書の書評(286)大野晋「日本語練習帳」

岩波新書の赤、大野晋「日本語練習帳」(1999年)は、初版から売れ続け累計200万近くの発行部数があるそうで、歴代の岩波新書の中でも一二を争う大ヒットとなっている。「なぜそこまで人気で売れるのか。広く読まれているのはなぜなのか!?」本書の内容を述べ…

岩波新書の書評(285)高護「歌謡曲」

岩波新書の赤、高護(こう・まもる)「歌謡曲」(2011年)はサブタイトルが「時代を彩った歌たち」であり、1960年代から1980年代までの30年間を10年単位で区切り、 「(1)各年代での『歌謡曲』の発展の歴史と特性についての時代ごとの考察、(2)個々の作品の基…

岩波新書の書評(271)筒井康隆「短篇小説講義」

私が10代の高校生だった1980年代末に筒井康隆は今より流行っていた。私も含め周りの人達は筒井「文学部唯野教授」(1989年)を読んでよく話題になっていたし、皆が筒井康隆のドタバタ・コメディに爆笑していた。岩波新書の赤、筒井康隆「短篇小説講義」(199…

岩波新書の書評(270)柳広司「二度読んだ本を三度読む」

岩波新書の赤、柳広司「二度読んだ本を三度読む」(2019年)は、岩波書店の月刊誌「図書」(2017年10月号から2019年2月号)で毎月一作品ずつ、小説もしくは戯曲を取り上げ、若い読者にとっての「初読み本」ガイド、ないしは年齢を重ねた人達へ向けての再読機…

岩波新書の書評(257)大江健三郎「新しい文学のために」

岩波新書の歴史にて赤版から青版へ、青版から黄版へ、黄版から新赤版への各移行時に最初の第1回配本のシリアルナンバー1の歴代新書は、どれも力が入っている。岩波新書の赤、大江健三郎「新しい文学のために」(1988年)は新赤版のシリアルナンバー1、最…

岩波新書の書評(254)ノーマ・フィールド「小林多喜二」

岩波新書の赤、ノーマ・フィールド「小林多喜二」(2009年)にて語られている小林多喜二その人について、まず確認しておくと、 「小林多喜二(1903─33年)。ロシア文学に傾倒、労働運動に参加。『戦旗』に昭和初年より代表的プロレタリア作家として活躍。192…

岩波新書の書評(230)梯久美子「原民喜」

文学者の原民喜については、 「原民喜(1905─51年)。日本の詩人、小説家。広島で被爆する。そのときの体験を元にした詩『原爆小景』や小説『夏の花』の作品で知られる。のちに鉄道自殺により死去。享年45」 岩波新書の赤、梯久美子(かけはし・くみこ)「原…

岩波新書の書評(205)勝木俊雄「桜」(岩井俊二「四月物語」によせて)

毎年、繰り返し四月の桜の季節になると岩井俊二監督、松たか子主演の映画「四月物語」(1998年)を観たくなってしまう。映画「四月物語」の概要はこうだ。 「『ラブレター』『スワロウテイル』の岩井俊二監督が、松たか子主演で、上京したばかりの女子学生の…

岩波新書の書評(194)斎藤茂吉「万葉秀歌」

昔の人は、今の人とは違い詩集を読んだり詩作をよくしたという。同様に和歌にもよく親しんだ。岩波新書の赤、斎藤茂吉「万葉秀歌」上下巻(1938年)は戦前の新書であるが、初版からの累計出版数にて歴代の岩波新書の中でベストの上位に常に位置し、これまで…

岩波新書の書評(181)大江健三郎「あいまいな日本の私」

ノーベル文学賞受賞記念講演たる川端康成の「美しい日本の私」(1968年)には、果たして「美しいのは日本」なのか、それとも「美しいのは私なのか」の修飾の係り方による意味相違の問題があった。この答えは、本講演の英訳にて「Japan・the・Beautiful・and…

岩波新書の書評(180)猪野謙二「小説の読みかた」

各々個別の文学作品に対して、「この作品はこのように読むべき」という正解の正統な読み方など、そもそも存在しない。個々の文学作品を各人が自由に読んで楽しんで、その人なりに読めれば、それが自然と正解の読み方だ。しかし、その一方で「この作品は従来…

岩波新書の書評(175)長谷川千秋「ベートーヴェン」

岩波新書の赤、長谷川千秋(はせがわ・せんしゅう)「ベートーヴェン」(1938年)は戦前の岩波新書であり、当時の少ない資料の中でベートーヴェンの生涯を詳細に記した人物評伝の古典として評価の高い新書である。ベートーヴェンについての書籍はロマン・ロ…

岩波新書の書評(171)斎藤美奈子「日本の同時代小説」

岩波新書の赤、斎藤美奈子「日本の同時代小説」(2018年)の概要はこうだ。「メディア環境の急速な進化、世界情勢の転変、格差社会の深刻化、そして戦争に大震災。創作の足元にある社会が激変を重ねたこの50年。『大文字の文学の終焉』が言われる中にも、新…

岩波新書の書評(152)河原理子「戦争と検閲 石川達三を読み直す」

岩波新書の赤、河原理子「戦争と検閲・石川達三を読み直す」(2015年)の表紙カバー裏解説文は相当に力が入っている。 「『生きている兵隊』で発禁処分を受けた達三。その裁判では何が問われたのか。また、戦後のGHQの検閲で問われたこととは?公判資料や本…

岩波新書の書評(151)成毛眞「面白い本」

岩波新書の赤、成毛眞「面白い本」(2013年)は、著者が太鼓判を押す「これは面白い!」のノンフィクション書籍を100冊紹介する内容だ。世評の読書アンケートにて本新書があまりにも人気で評判がよいので先日、手にして読んでみた。本書は「面白い本」を100…

岩波新書の書評(150)安藤宏「『私』をつくる」

岩波新書の赤、安藤宏「『私』をつくる・近代小説の試み」(2015年)の表紙カバー裏解説には次のようにある。「小説とは言葉で世界をつくること。その仕掛けの鍵は、『私』。日本近代小説の歴史は、明治期に生まれ普及した言文一致体によって、いかに『私』…

岩波新書の書評(148)桑原武夫「文学入門」

「文学入門」や「文学概論」の書籍は不思議だ。おそらく、どんな人でも若い10代の頃に何かしらの契機で古典や近代の小説を最初に一編くらい軽く読み、それから人によってはさらに進んで数編読み重ね次第に文学の世界に馴染んではまり込み、話の純粋な楽しみ…

岩波新書の書評(134)作田啓一「個人主義の運命」

岩波新書の黄、作田啓一「個人主義の運命」(1981年)は、そのタイトルからしていかにも難解で深刻な内容のように思われがちだが、実はそこまで難解ではない。ただし、深刻さの方だけ最後は相当に深刻で悲惨な「個人主義の運命」になるのだが。岩波新書「個…

岩波新書の書評(128)石母田正「平家物語」

歴史上の古典文学は、主に文芸批評と歴史学研究との二つの論者から読んで評せられる。これまでの私の読書経験からして、軍配があがるのは歴史研究者の方である場合が多い。かたや文芸批評家の古典読解は、しばしば残念な結果になりがちである。 例えば本居宣…

岩波新書の書評(114)中谷宇吉郎「雪」(松岡正剛「千夜千冊」に寄せて)

岩波新書の赤、中谷宇吉郎「雪」(1938年)の概要は以下だ。「雪の研究で世界的に有名な著者が、平明懇切に雪の科学について語る。雪と人間生活との関係から始まり、有名な『人工雪』の出来るまでの過程を詳細に述べる。本書は、身近な自然現象に対して、先…

岩波新書の書評(106)中村光夫「日本の近代小説」

先日、現代文予備校講師の出口汪(でぐち・ひろし)のラジオ講座「NHKカルチャーラジオ・文学の世界・カリスマ講師に学ぶ近代文学の名作」を連続で聴講して面白かった。出口汪は、大本(教)の教祖・出口王仁三郎(でぐち・おにさぶろう)の曾孫(ひまご)で…

岩波新書の書評(95)高橋源一郎「読んじゃいなよ!」

先日、岩波新書の赤、高橋源一郎「読んじゃいなよ!」(2016年)を読んでみた。読み味として近年の同じ岩波新書でいえば、斎藤美奈子「文庫解説ワンダーランド」(2017年)に似ている。 「明治学院大学国際学部・高橋源一郎ゼミで岩波新書をよむ」とあるよう…

岩波新書の書評(69)十川信介「夏目漱石」(その3)

(前回からの続き)「道草」(1915年)は、夏目漱石の自伝的小説である。大学の教師となっている健三に親戚中が無心するなどして関わってくるが、健三はその関係を絶つことが出来ないでいる。他方で夫婦仲も悪化し、妊娠中の妻はヒステリーの症状をきたし、…

岩波新書の書評(68)十川信介「夏目漱石」(その2)

(前回からの続き)夏目漱石は、近代の人間悪追及の日本近代文学の正統で超一流の破格な文学者であったが、忌憚(きたん)なく率直に言って、人間そのものが描けない小説が下手な小説家であった。「こころ」(1914年)を執筆の頃までの漱石は。 夏目漱石の小…

岩波新書の書評(67)十川信介「夏目漱石」(その1)

日本近代文学史における「近代」ということの意味を突き詰めて考えた場合、「近代」は人間中心主義の時代であり、前近代の呪術性・魔術的なものから人間が解放され、遺憾なく主体性を発揮できる一方で、人間の欲望、エゴイズムの負の問題も絶えずついてまわ…

岩波新書の書評(45)斎藤美奈子「文庫解説ワンダーランド」

岩波新書の赤、斎藤美奈子「文庫解説ワンダーランド」(2017年)は、作品そのものではなく文庫本の巻末に付されている「文庫解説」を俎上(そじょう)に載せる文芸批評である。いわば「文庫解説の解説批評」というわけだ。本新書を手にして一読する人は即座…

岩波新書の書評(22)中村明「日本の一文 30選」

岩波新書の赤、中村明「日本の一文・30選」(2016年)は、日本の近代文学から主な一文の名文を30選の厳選にて取り上げ紹介鑑賞しようという趣向の新書だ。表紙カバー裏解説は次のような、ややカジュアルなものとなっている。「プロの作家が生みだす名表現の…

岩波新書の書評(16)加藤典洋「村上春樹は、むずかしい」

岩波新書の赤、加藤典洋「村上春樹は、むずかしい」(2015年)の表紙カバー裏には次のようにある。「はたして村上文学は、大衆的な人気に支えられる文学にとどまるものなのか。文学的達成があるとすれば、その真価とはなにか。『わかりにくい』村上春樹、『…

岩波新書の書評(15)篠田浩一郎「小説はいかに書かれたか」

岩波新書の黄、篠田浩一郎「小説はいかに書かれたか」(1982年)は、古書店巡りをしていると行く先々の古書店にて重複して非常によく見かける新書である。発行部数が多く岩波新書の中では当時かなり売れた書籍なのか。もしくは本書は大学の文学講義にてテキ…